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剤型の改善、効能追加など、新薬メーカーが打ち出す対抗策

 

新薬メーカーが生き残るための対抗策とは

 彼我の勢力差から、メバロチンに関しては先発メーカーが圧倒的に強いのが現実。ただ、この状況がいつまでも続くわけではないし、特許切れの危機に直面している他の大型医薬品にとっても、ジェネリックが脅威でないわけがない。

 医薬品メーカーの本質はあくまで「新薬を出し続ける」ことにあり、いかに大型医薬品といえども特許が切れて開放されてしまえば、縮小の運命を避けられない。それがいつになるか、単に時間稼ぎ以外のなにものでもないというのが本質なのである。

 もちろん、新薬の種(パイプライン)が無限にあっていくらでも新薬を出せるという状況ではない。新薬候補が一〇万種類あれば、何段階もの治験を経て実際に商品化される新薬は一〇品目にすぎないというデータもあるほど、パイプラインは細っている。限りあるパイプラインでいかに長く稼ぐか、というのが大きなテーマになっているのだ。

 また、長期的にみれば、テ上フーメード医療といって、遺伝子レベルでの医療が進んでいく。同じ疾患でも個人個人の遺伝子レベルでの特性に応じてピンポイントで治療していこうというものだ。

 医薬品もその流れにあり、遺伝子解析によって一人一人に応じた医薬品を開発していくことになる。ある人には効かないがある人にはすさまじく効果があるというケースも出てくる。これは従来型の医薬品開発の手法とはまったく違う。ある意味マス的な要素が強かった従来の医薬品開発ではなく、特注品的な絞り込んだ開発になっていく。

 もとより、こうした遺伝子レベルでの医薬品開発は緒についたばかりで、とても商品化のスケジュールに入る段階ではない。

 しかし、確実にその方向は見えており、一般化していけば、医薬品業界にはさらなる地平が広がっていることがわかってくる。これまでとは比較にならないほどの巨大市場があるかもしれない。

 とすわば、医薬品メーカーにとってはそれまでの我慢なのである。何年先のことかわからないが、それまでは既存の手法で新薬を開発し、それを可能な限り育て維持して収益を上げ続けなければならない。

 長期的視野はともかくとして、足元のジェネリック医薬品の攻勢に対して、強い危機感を持つ先発薬メーカーの対応策としては次の七つだろうか。

 ①営業力
 ②剤型の改善
 ③効能追加
 ①大衆薬への転用
 ⑤訴訟
 ⑥自ら後発品を扱う
 ⑦医薬卸への圧力

 メバロチン三共が取ったのは、①、③、⑤、⑦といったところ。

 ①はあくまで正攻法。それまで培ってきた医療機関との信頼関係を軸に、継続使用を求める。医療機関側としても、ジェネリックに切り替えねばならない内的必然性を持かないから、医薬品決定の要 因がMRの訪問頻度が高いとか、商品供給がスムーズだとか、サービスがいいとか、価格以外の要素 94で決まることが多い。

 また何度も述べるが彼我の業容の差は埋めようがない。同一の条件で競争するとなれば、営業現場レベルではまったく相手にならないのだ。ただ、同一条件といかないところに新薬側の悩ましさがある。

 この営業力というのは、⑦の医薬品卸との関係も含めたものとなる。

 取引のある卸に、自分の商品を使うように求めること自体は違法でも何でもない。どの業界でもどの企業でもやっていることだ。むろん、その方法として違法なリベート攻勢や優越的地位の乱用(言うとおりにしないと取引をやめるという脅し)などが入ると問題になるのだが、その善し悪しは別にして、それが可能なメーカーの営業力が、対ジェネリックヘの有効な対抗策となりうる。

 ⑤の訴訟という手段は派手だが、対ジェネリックとしては本筋にはなり得ない。ジェネリックの開発や発売を遅らせる時間稼ぎの効果くらいのものだろうか。

 訴訟社会の米国では訴訟が有効な武器となる。というより訴訟を起こさなければ、それを認めたと見られ、相手側のやりたい放題となるからだ。特許に触れるとわかっていながらジェネリックを発売するなど、違法すれすれのフライング行為を行う確信犯もいるから、油断も隙もならない。訴訟を前提に事業活動を行うところもある。

 いわば訴訟慣れ、訴訟ずれしている米国とは違い、日本で新薬メーカーが防衛的に起こす訴訟には別の意味も含まれる。

 メバロチン三共が日新製楽などを訴えたケースでは、一億円を超える損害賠償を請求された。売上げ五九〇〇億円規模(当時)の三共にとっては微々たる金額だが、売上げ四〇億円程度の日新製薬にとっては、これに敗訴することは収益面で大きなダメージを受けることは明白(後に和解)。

 三共の場合はまだおとなしかったが、一〇億円、二〇億円の損害賠償を求める強引なやり方も可能。そうなれば訴訟一つで企業存亡の危機に陥る。

 この圧力がジェネリックメーカーにとって強力なのだ。米国と違って、日本社会は訴訟に慣れていない。訴訟を起こされただけで悪者というイメージを持たれる懸念もいまだ強い。

 明白な特許侵害ならともかく、グレーな部分に勝負をかけるところも多い。まぎらわしいネーミングや包装などもグレーな要素が強く、そのいちいちに訴訟が飛んでくるとなれば、強い抑止力となってジェネリックメーカーの前に立ちはだかることになる。

 ただ、抑止力としては強力だが、正当にジェネリックを開発し、販売するメーカーに対しては訴訟という手段は有効性を持てない。あくまで傍流の手段といえよう。