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動物飼育、投与実験、生態系影響実験などの問題研究報告

 一般に遺伝子の体内取り込みが問題にされているのは、ここでいうような荒唐無稽な観点からではなくて、たとえば、抗生物質耐性遺伝子をマーカーとして組み込んである遺伝子組み換え作物が環境に開放され、生体内に摂食された場合に、この遺伝子部分が交差耐性現象を起すことはないか、たとえば、大腸菌や化膿菌のような細菌類に抗生物質耐性遺伝子が移行する可能性はないのか、ということで問題にされているのである。

 FDA (米国食品医薬品局)でさえ、この問題の重要性を認めて、企業に対して厳重な確認を求めている。ウシの遺伝子を食べればウシ人間ができて、野菜の遺伝子を食べればヤサイ人間ができるなど、そんなことを心配している消費者が今時いるはずがない。

 このコラムの筆者は、「普通の人なら」そんなことは「思わないでしょう」といったん述べたすぐあとで、⑤において「遺伝子組み換え食品への不安には、どうも、このたぐいの非現実的なものが多いのです」などと断定している。これでは、今日、全世界的に、意識調査では80%以上の消費者が不安感を持っているといわれるが、この人々は「普通の人」ではなくて、このたぐいの非現実的な不安」を感じている人である、ということになってしまう。

 これは、今日、全世界的な高まりを見せている関連領域の研究者の緊張感と消費者一般の遺伝子組み換え食品に対する理解の程度を蔑視するものであるといわれてもしかたがない。むしろ、遺伝子組み換え技術や、遺伝子組み換え作物・食品に対する研究者の関心事や消費者の運動理念についての認識の程度が疑われる。あるいは、先端技術のあり方に対する筆者のものの見方について基本的に問題があるといわざるを得ない。

 最後に、肝心の②の部分であるが、[危険・有害であることを示す科学的なデータは一切ありません]という筆者の見事な断定ぶりには驚きを禁じ得ない。「一切ない」などと言い切っているが、1996年に、この遺伝子組み換え食品が登場して以来、私たちが予想したような、多数の問題性を裏づける「科学的なデータ」が今日までに、著名な学会誌などに登場しているという事実を認めないというのであろうか。

 確かに論争はある。データの真偽はこれから明らかになるであろう。それは、画期的な事態にかかわる科学的な必然である。しかし、動物飼育、投与実験、生態系影響実験などの問題研究報告が「ある」ことは事実であり、消費者に向かって[一切ない]というような断定をこの時点で、このような形でする、というのは研究者としての公正な態度であるということはできない。