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遺伝子工学のクローン技術について

 遺伝子工学が、人類にもたらす効用について述べられることが多いことは理解できる。しかしそれ以前に、この画期的な技術を生命倫理の側面から考察することが必要である。何であれ、科学的であればよいというわけではない。たとえば、科学的に効率的に人を殺すことができる爆薬が、そして原爆がその例証である。

 さらに、たとえ安全であっても何をしてもよいわけではない。有用、便利、安全などとは全く別概念の生命の倫理や道徳的な側面からの考察がなければならない。その意味で、生命工学が次のような多くの問題を抱えていることに留意しておく必要があるだろう。

人のクローン開発への道

 遺伝子工学の今日的な技術の水準において、すでに人のクローンをつくることは不可能ではないといわれている。 97年の2月にイギリス、ロスリン研究所のウイルムート博士たちがクローン羊・トリーを誕生させ、さらに人の遺伝子を組み込んだポリーを誕生させて、全世界に大きな衝雌を与えた。即時にローマ法王が声明を発表し、クリントン大統領を初め各旧の首脳もそれぞれ見解を表明するなど、人のクローンにつながる生命工学に対する倫理的な側面からの批判が大きく登場してきた。

 もちろん遺伝子工学が、人のクローンをつくることをよしとするような考え方もある。たとえば、死期の近い人が自分のクローンをつくって再生をはかる、知能と体力にすぐれた人のクローンをつくって人類の学問や芸術、文化の進歩を促進させる、などという一見して合理的で納得できそうないい方もできる。たとえば、21世紀に予測される人類の環境や食糧危機を克服するためには、科学技術的な対策が重要であることはいうまでもない。そこで、ノーベル賞クラスのクローン人間を大量生産にの言葉をあえて使用する)して、たとえば、オゾン層を修復する技術や、核融合、ソーラーエネルギー技術や遺伝子組み換え多収量作物の開発に当たらせる、などというような考え方もできる。

 似非倫理的な考え方も登場してくる。子どものできない夫婦のためにクローン技術を応用する。寿命を延長する。フランスに教祖がいる「国際ラエル運動」という教団では、人のクローニングを西暦2000年までに実現すると発表したといわれている。

 さらに、米国やイギリス、イスラエルなどでは人のクローニングの禁止に対する研究者の抵抗が強く、禁止でなく枠組みを作って人に対するクローニングの適用を許可して欲しいという要求があり、遺伝病の治療にクローニング技術を応用することについて、イギリス政府も反対していないという現状がある。また、米国では人の胚の研究に対する公的資金の導入が
打ち切られてから、民間の研究所で生命操作に関する研究が行われるようになり、憂慮すべき情勢が生まれているといわれている。

 一見、人道的であるかのごとき、あるいは科学の進歩のためであるかのごとき考え方ではあっても、それらは、やがてクローン技術によって人に奉仕させるための人を、差別的に、人白身が設計できるということにつながってくる。権力者が支配用、戦争用の大を大量生産することもできることになる。そして、何よりも人の生命の尊厳という、人が人を恣意的に支配したり、利用したりしてはならないという生命倫理的の一線を侵犯することにつながることにもなるだろう。

 遺伝子工学が科学の進歩の名のもとに成し遂げたことは、確かに驚異的である。しかし、従来、神のみが知る、とされてきた生命の価値までも人が支配できるようになったと考える傲慢は許されることではないというべきである。

 クローン技術は、遺伝子組み換え技術をかならず随伴する。それらは一体のものであるといってもよいだろう。

 我が国では、以上のようなクローン問題に対する宗教、倫理、社会学関係者の反応が非常に鈍いように思えるが、極めて不可解なことである。