医薬翻訳サービス

薬理学、生化学、統計学に精通した翻訳士が対応いたします

遺伝子診断や遺伝子治療がもたらすもの

 

 医療分野での遺伝子工学の進歩も目覚ましいものがある。人の健康、素質、性格、知能、行動までも支配する遺伝子が突き止められようとしている。すべての人の遺伝子を私企業の特許権の対象にするべきであるという児解もある。そして、現に人の95%を超える遺伝子について特許が申請されている。新生児に発見される先天代謝異常であるPKU症は、アミノ酸フェニルアラニンからチロシンへの経路をつかさどる遺伝子の欠損によるものであり、現状では出生後に特別な治療食を与えて知能の低下を防いでいる。将来的には、出生前の早い時期に異常を発見し、遺伝子を組み換えて治療することが可能になるかもしれない。

 しかし、ここで大きな問題がある。遺伝子構造を調べることによって、その人の異常がわかるというが、その異常とは何を基準としているのだろうか。どこで正常との線引きするのだろうか。法的にはもちろん、医学的、自然科学的に異常をどのように定義することが可能なのであろうか。たとえば、知能に対する判断基準は何なのか。記憶、理解、推理というような知能を構成する要因の何を優先するのか。優劣の定義すら明確でないままに、ゲルマン民族の「優秀性」を守るためにユダヤ民族を抹殺するという論理がおおまじめにまかり通ったように、人が人の優劣や異常を判断するために遺伝子工学が利用されてもよいのであろうか。しかし、現実に遺伝子工学は病気の予防や治療という大義名分のもとで、人の差別化を鮮明にする方向にも、その適用範囲を急速に広げている。それどころか、保険や採用、昇進にまで利用されようとしている。遺伝子工学的新優生思想とでもいうべき考え方が急速に広がろうとしている。

 遺伝子治療の研究は米国などで盛んに行われているが、重篤な副作用事例が多く発生しており、その割に成功例がほとんどないというのが現状である。授精直後の全能性のあるDNAの遺伝子解析が可能となり、その一部に異常を発見し、これを健全な遺伝子と置換するというようなことを生命体について問題なく、実施できる可能性はほとんどない。成長以後の遺伝
子置換によって治療することについては、基礎的な研究が不足しているように思われる。

 人は生まれながらにして、個性的であり、互いに和違しており、心身のありようによって差別されるべき存在ではない。人の遺伝子構造が精密に判明した段階において、遺伝子診断が差別化のために利川される危険性があることを警戒しなければならない。この技術の一人歩きを許すことによって、人の生命の尊厳を侵犯する危険性があることに留意しなければならない。

 超音波診断やホルモン分析によって、胎児の段階ですでに男女の判別ができるようになっている。男性、女性が均等に生まれるようにつくられた神の摂理、調和の原則が破棄されて、男女の産み分けという、おぞましい現実がひそかに広がろうとしている。しかし、遺伝子工学は遺伝子操作によって、将来的に、もっと的確に、配偶子の段階でXY遺伝子を操作して男女を産みわけることを可能にするであろう。すでに畜産分野で行われていることを人では安易に許さないために、今こそ、生命倫理を重要視する思想を遺伝子工学の分野にも確立することが必要である。