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生命体を特許対象にすることに関して

 工業的な知的所有権とは、科学的な原理、原則を応用して新規の技術を開発した場合に国家が開発者に対して与える、その特定技術を所有することについての権利である。第三者が、この技術を利用する場合には一定の権利使用の代価を支払うことが義務づけられており、特許は知的所有権の一種であるとされている。

 遺伝子組み換えの場合には、一定の塩基配列を持った遺伝子が生物学的な一定の形質、すなわち、一定の形態や機能と関連していることを発見した場合、この遺伝子をある生体からCUTして(切り取って)別の生体のDNAの一部分にPASTEする(貼り付ける、組み込む)ことによって、すなわち遺伝子を組み換えることによって、新規の機能を持った生命体をつくり出すことができる。このような新生物が除草剤耐性を持った遺伝子組み換えダイスであり、害虫抵抗性を持った遺伝子組み換えナタネであり、これらの種子を利用する場合には、相応の知的所有権の利用にかかわる代価を開発者に対して支払わなければならないとされている。

 他方で、微生物、ウイルス、動植物および人の遺伝子はそれぞれに何らかの生命現象に関与しているのであり、現状では、いかなる形質の実現に関与しているのかが明らかではなくても、将来的には、個別の遺伝子あるいは複数の遺伝子の組み合わせによって新規な機能をつくり出すことを期待して、遺伝子解析によって明らかになったすべての遺伝子自体が、特許の対象となるとする考え方がある。

 たとえば、米国、日本、EUの政府機関などが協力して人のすべての遺伝子の解析を行っており、2003年までに完了する予定であるといわれている。他方で、米国の民間企業が独自に人の遺伝子解析を行って、すでに95%以上を解明し、しかも個別の遺伝子に特許を申請しているといわれる。もしも、将来的に遺伝子の自由な利用が知的所有権の対象として制約されるようなことになれば、結果的にさまざまな問題が発生してくることになる。たとえば、特許使用の料金が支払える人だけが恩恵を得ることができるようになるなど、医療目的への自由な利用が制約され、医薬品製造目的への利用も困難になる。また実際的に、遺伝子関連の研究が先行している先進国の国家や企業が大部分の遺伝子関連の特許を獲得することになってしまう。こうしたことは、グローバルな視野でみた場合、知的所有権の独占を通して、特に農業や畜産、医療、医薬品などの分野での国家的、産業的な支配、独占を可能にすることにつながってしまう。

 遺伝子の組み合わせによって、はじめて実現する生物の形質の特異性に相応して、遺伝子の組み合わせ事例もまた、知的所有権の対象となるとする論理も成り立つが、こうしたことは究極的には、現存する生物もまた、解析された遺伝子の集合体である特異なDNAを所持するものとして、特許の対象になりうるとする考え方を容認することになる。遺伝子を特許の対象にするという論理は、あらゆる生命体を個人的な所有権の対象にすることにもつながるのであって、いわゆる物理化学的な、あるいは技術的な成果に対して与えられる本来の特許の場合とは相当に意味を異にするものであるといわなければならない。

 途上諸国などで発見される医薬品資源となりうる希少動植物の場合でも、先進国の企業や研究者が遺伝子解析に成功して特許を獲得した場合には、原産国にこの動植物の遺伝子資源にかかわる権利が一切残されないことになる。 1992年のリオ・サミットに際して、米国は遺伝子資源に対する知的所有権を主張したが、途上国および米国以外の先進各国は生物資源を保有する国家の利益に配慮して、米国の主張に反対した。