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第三者研究機関の研究資料を必要としない

 遺伝子組み換え食品の食品としての安全性の審査と認証は厚労省が定めたガイドラインによって行われてきた。このガイドラインの特徴は申請企業にとっては非常に有利なしくみになっていた。もちろん、食品衛生法にもとづいた法的な規制ではなかった。したがって、企業側が安全性の確認を行政側に求めないことさえも原則的に自由であった。また、行政側に審査を要求する場合の根拠資料は特許権保護の立場から、社会的に仔細に公開されたものではなく、第三者の評価を得たものでもなく、企業内の関係者によって作製されたものであった。審査にあたる行政側の食品衛生調査会では、提出された安全性関連の資料の信憑性を論じることはできないしくみになっていた。データの再現性を確認することは科学的な検証、審査の基本であるべきだが、その点も完全に保証されてきたとはいいにくい。信頼の原則というあいまいで抽象的な前提で審査が実施されて認証された食品が広く消費者の利用に委ねられてきた。

  既存のガイドライン制の特徴
食品衛生法にもとづく法的な規制ではない
2安全性の確認申請は企業の任意である
3企業の提出する資料、データを信頼する
4慢性毒性、特殊毒性試験のデータは第一義的に要求されない
5国としての確認試験を行わない
6第三者研究機関の研究資料を必要としない
7企業に対する罰則はない
8国に指導、監督、監視責任はない
9被害が発生しても国には法的な責任がない

「ねばならない」規制でなくて「することができる」指針である。公的な強制力のない、企業にとって任意制とでもいうぺきものである。

 このガイドラインでは人の食品としての日常的、反復的、長期的な摂取、利用に伴う毒性試験の資料が第一義的に要求されてはいなかった。それらは必要と認めるときに限って要求されるしくみになっていた。実際に、もちろん、これまで一度も要求されたことはなかった。これは、いわゆる実質的同等性という、従来、食品の安全性の審査で重視されてきた食品衛生学的な原則とは全く異なった認証の方式を前捉として遺伝子組み換え食品が登場していたためである。食品衛生法によって、新規食品としでの妥当性を厳格に検証して、有害性の有無を確認するという、今日的で普遍的な食品衛生学的な前提が欠落していたからである。

 技術として非常に若く、新しく、理論的にも技術的にも相当に未熟な遺伝子組み換え作物・食品がこのようなシステムで、このようなガイドラインにもとづいて市場に送り出されてきた事実を正しく知っておく必要がある。もしも、このようなガイドラインによって認証された遺伝子組み換え食品が消費者に何らかの被害を与えるようなことがあった場合でも、そのような食品を認証した国の行政側には法的な責任が問われることはない。食品添加物の場合のような、国の企業に対する指導、監督、監視の責任もない。現に今日、遺伝子組み換えダイスなどが相当量市場に出回っているが、それらの詳しい数量的、品質的な統計を厚生省でも農水省でも全く把握していない。消費者の関心が高く、EUなどでも社会的に非常に注目されている遺伝子組み換え食品の申請が、我が国では審査の段階から流通、利用の段階まで企業側の任意に委ねられてきたといっても決して過言ではない。

 遺伝子組み換え食品は非常に新しく、したがってなお未完成な技術の所竚であり、市場に製品が出現してからわずかに5年しかたっていない。にもかかわらず、それは一般に食品衛生法で重視される「新規開発食品」としての取り扱いを受けてこなかった。消費者の不安が大きいのは極めて自然なことであったといわなければならない。恐らく開発企業、特に輸出国側の巨大な圧力がなければ、我が国の食品衛生法によってガードされてきた川有の風土のなかでは、このような異常な状況は発現しえなかったことであろう。

 結論的に現行の遺伝子組み換え食品の安全性についての認証では、法的に企業側や国側か消費者、国民に対して負わなければならない食品供給者としての責任が免除されてきたことを再確認しておく必要がある。これは輸出入、流通のあらゆる過程についていえることである。現にダイズなどは98%が輸入に依存しており、そのうち米国産が80%以上を占めるとされているが、輸入時点での検疫所などでの検査、認証は一切行われていなかった。その理由が何であれ、国民の最大関心事であるような食糧、食品については、国が数量、品質などについての一定の輸入時点での確認作業を行い、国民に対してその情報を公開するのは当然の責務であったといわなければならない。