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特別部会報告の評価と問題点


 1996年以来今日まで、遺伝子組み換え食品の安全性の認証がガイドラインによって行われてきたことには基本的に問題があり、食品添加物などと同様なポジティブリストの方式、すなわち食品衛生法による規制方式を採用すべきであることは、一貫して指摘されてきたところである。今回、こうした国民、消費者側の要求が5年ぶりにようやく認められて、厚生省が法的義務化に踏み切る方針を示したことについては一応評価することができる。

 遺伝子組み換え食品の登場以来、遺伝子組み換え食品は安全であり、普通の食品と実質的に同等であって、予防衛生学的、公衆衛生学的な観点にもとづく法的な規制をする必要がない、JAS法による品質表示さえする必要がない、などと一貫して述べてきた厚生省、農水省関係の行政関係者や一部の企業、一部の研究者たちは今回の国の方針転換に際してどのように釈明することができるのか、注目に値する。また消費者団体の一部に見られた、ガイドライン制の撤廃と安全性の確認に関する法的義務化を政府に対して積極的に要求しようとしなかった姿勢についても、この際深く反省しなければならないであろう。

 特に法的義務化や表示が不必要である理由として、従来、実質的同等性にもとづく審査が行われて安全性が認められているから、としていた部分を、今回の国の方針転換に際して、関係者が正確に取り消すのかどうかが率直に問われている。

 従来のガイドライン制の論理と方式を捨てなければならなかった理由は、安令性の確認の法制化、義務化という消費者側からの基本的な要求に屈したからであることはいうまでもないが、そのほかに、実質的同等性の確認即安全の確認という、当初からの厚生省ないし食品衛生調査会の主張を現実に押し通すことが困難になってきたことにもあるというべきである。

 すなわち、形状、成分などがほば同等であり、その他の既定の検証条件を満たしておれば問題がない、としてきた当初の除草剤耐性ダイスや害虫抵抗性トウモロコシのような遺伝子組み換え食品のほかに、最近になって実際に高オレイン酸含有ナタネのように成分を増強し、あるいはアレルギー成分を除去した作物のように、成分を変更、減殺したものが普遍的に出現するようになってきた。また、アミノ酸組成を変更した遺伝子組み換え米の実用化が予定されているように、国内での情勢も急激に変化してきた。

 既存の形状、成分をむしろ変化させて、栄養学的(アミノ酸の強化、調整など)、衛生学的(保存性、日持ち性能の改善、抗菌、抗ウイルス性など)、嗜好的(味覚成分の改善など)、形態的(色相、形状の改善など)に、従来品よりも商品価値をより高めることを目的とするような方向を目指すような遺伝子操作技術は当初から存在しており、企業や行政側の実質的同等性の論理が遠からず行き詰まることは予想されていた。

 しかし最近になって、もはや従来の実質的同等性の検証にはなじまないような、すなわち「食品の構成成分が同程度であること」や類似した性質などの[実質的同等性]についてのあいまいな定めには、もはやなじまないような形質を与えられた組み換え体が多数出現してきて、審査、認証にあたる行政側、食品衛生調査会が対応に苦慮するようになってきたものと想像される。

 このような、従来品種と実質的に同等とは認められない組み換え体については、我が国の食品衛生法規定では、「新規食品」としての安全性の確認が義務づけられなければならないのは当然のことであった。

 以上のように、食品衛生調査会の従来の実質的同等性の論理にもとづくガイドラインによる検証が、まさしく「実質的に」行き詰まったために、国はあらためて今回の措置に踏み切らざるをえなかった、というのが真相である、というべきではなかろうか。

 いずれにせよ、今回の法的義務化は、次の諸点において歓迎するべきことである。

1)遺伝子組み換え食品が食品添加物などと同様にポジティブリスト化された。遺伝子組み換え食品の食品利用は原則禁止であり、食品衛生調査会の議を経て厚生大臣が認可したものに限って食品としての輸入、製造、使用が認められるようになる。これは今日的な食品衛生学的な公的管理システムとして当然のことである。これまで遺伝子組み換えという画期的な技術を応用してつくられた食品に対して、新規食品としての取り扱いをしていなかったことは極めて不当な、異常な取り扱いであった。

2)遺伝子組み換え食品の安全性の確保、監視、指導などについての国の責任が重くなる。特に現時点では、すべてが輸入ものである遺伝子組み換え食品の検疫、検査、監視義務が重視されるようになる。

3)企業の安全性の確認、申請、資料の提出などについての責任が重くなる。従来のガイドラインにもとづく企業からの申請についての任意制が否定される。

4)安全性の確保についての国の法的責任が明確にされたものについてのみ、法的表示が可能となり、表示の信用性が増す結果になる。