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遺伝子組み換え食品の表示に対する企業の姿勢

 

 

 消費者が食品を選択するにあたって、もっとも有効な情報源は表示である。食品に関して消費者の知る権利を具現している表示は、食品の品質を維持したり、安全を支える重要な役割を担っている。さらに重要なことは、食品を供給する企業の責任を明らかにさせる有効な手段でもある。

 製造企業にとって食品表示は、商品としての価値を示す絶好の媒体である一方、その内容によっては売れ行きにマイナスとなる情報にもなりうる要素をあわせ持っている。表示する側の企業と、表示を活用する側の消費者のそれぞれの目的や利害のせめぎ合いのなかで今日の表示制度があるといえる。

 これまでの章で触れてきたように、遺伝子組み換え食品は、組み換え技術そのものの危険性や環境への影響、食品としての安全性、倫理的側面など、いまだに決着に至らないさまざまな問題を残している。消費者が組み換え食品を選択するにあたっての最大の懸念は安全性であるが、それ以外にも倫理面からの判断や宗教的理由で選択する場合もあり、表示は情報源として欠かすことはできない。

 にもかかわらず遺伝子組み換え食品は、初めて認可された96年からごく最近に至るまで、公的な表示制度がないままに市場で流通してきた。消費者は選択したくてもその手段がない立場に追い込まれていた。消費者の強い要求のなかで、ようやく農水省は組み換え食品の表示を決定したが、その内容は消費者にとって不十分であるうえ、本格的な実施は2001年と遅い。

 遺伝子組み換え食品の表示は、情報提供や商品の差別化だけの観点で判断されているわけではない。表示が、各国間の貿易交渉、とりわけWTO(世界貿易機関)の場における国際的な圧力に曝されている。また、遺伝子組み換え技術の育成や農業保護をめぐる駆け引きのカードとして使われている点などに留意する必要がある。

行政、企業の考え方

 厚生省は、遺伝子組み換え食品を初めて認可した96年当初から、表示を行わない方針を表明してきた。その根拠は、組み換え食品が従来の食品と変わりがなく、「実質的同等性」があること、「ガイドライン」(組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針)に従って、安全性を確認したので表示の必要はないとするものであった。一方で、厚生省は、食品添加物を安全と認めながらも表示を行っており、遺伝子組み換え食品の表示が不要とする主張には明らかに矛盾がある。しかし、消費者から強い批判を受けるなかで、厚生省は2002年からの表示を表明した。現在、食品衛生調査会で検討が続けられている。

 一方、農水省は、審議を重ねてきた食品表示問題懇談会の最終的な報告を受けて、2000年4月に品質表示基準を改め、翌年4月から遺伝子組み換え食品の表示の実施を決めた。表示の目的は、あくまでも消費者が商品を選択のための情報提供であり、安全性の判断は、厚生省によって終わっているとする前提に立っている。

 農薬企業や穀物メジャー、食品企業の多くは遺伝子組み換え食品の表示に強く反対している。技術的な困難さ、コストの増加などに加えて、遺伝子組み換え食品の安全性はすでに確認済みであり、表示を義務づければ、安全でないとの誤解を消費者に与えるというのがその論拠である。

 一般的に、食品企業は、付加価値を高めるために開発された食品の表示には積極的である。特別な生産方法によることを示す特定JAS表示(地域食品認定制度やふるさと認証食品の表示など)や、生理機能を特徴とした特定保健用食品、有機食品などがそれである。表示が商品の差別化につながり企業に都合のよい場合は積極的であるが、マイナスイメージをともなう表示には否定的な傾向にある。表示の対象や内容によっては、消費者の選択行動に影響し、食品企業にとって不都合があるためである。たとえば、発癌性食品添加物に対する警告表示には消極的であり、製造年月日表示の廃止に積極的であった。まさに、遺伝子組み換え食品の表示に対する企業の姿勢は、この矛盾する姿勢の延長線上にある。