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成長ホルモン(BST)を乳牛に投与し生産されたBST牛乳の任意表示

 

 米国やカナダが遺伝子組み換え食品開発に積極的であった一方、EU各国は早くから組み換え食品に対して慎重であり、それは表示の姿勢にも反映されている。 98年5月に施行されたEUの表示制度では、1)従来のものと同等でないもの、2)人の健康に影響があるもの、3)倫理的な問題が生じるもの、4)野菜や果物(加工食品については99年9月施行)など組み換えDNAや産生蛋白質が残留する場合に表示の義務化を定めた。日本の制度のように「不分別」表示はなく「使用」か「不使用」のいずれかであり明確である。さらに、EUは99年6月に、遺伝子組み換え作物の新たな認可を2002年まで凍結することや表示を厳しくすることを決めた。 2000年4月からは、組み換え作物が1%以上混入しておれば、すべての食品に表示が義務づけられる。日本の表示とは際立った差が見られる。

 アジアでは、韓国が義務表示を決めており、マレーシアも検討中である。ニュージーランドとオーストラリアにおいては、従来の食品と同等であっても表示の義務づけを決定している。

 米国やカナダでは、組み換え食品が既存の食品と比べて著しい成分変化があった場合やアレルギーなど健康に影響がある場合だけが、表示義務がある。今のところ表示対象はない。

 米国での唯一の例外はBST牛乳の任意表示である。 BST牛乳は、遺伝子組み換え技術によってつくられた成長ホルモン(BST)を乳牛に投与し生産されたもので、94年に販売が許可された。遺伝子組み換え技術を利用した食品のなかでは、世界で初めて市場に出た商品であり、当初米国では強い反対運動があった。バーモント州では95年にいったんは強制表示を決めた。これに対して遺伝子組み換え食品の開発企業は、強制表示に強く反発し、「安全性が確かめられたにもかかわらず表示することは、安全でないという誤解を消費者に与える」と主張した。企業のロビー活動による巻き返しもあり、96年に強制表示は連邦法違反だとする判断が出された。しかし、BSTミルクの任意表示制度は有効で、バーモント州のほかニューイングランド地方を中心に米国10余州で実施されている。

 これまで米国では、ニューイングランド地方の各州で、組み換え食品表示を検討する動きがあるにすぎなかった。しかし、最近になって米国でも、遺伝子組み換え表示の義務化の拡大が提案されるなど、これまでにない動きがある。

 ヨーロッパにおいて遺伝子組み換え食品の表示が行われているのも、遺伝子組み換え技術を食品に利用することに慎重である基本的な背景がある。安全性の問題が全面に押し出されているが、それだけではない。1)自国農業への打撃の回避、2)米国に先行された自国の遺伝子組み換え技術のてこ入れなど、極めて政治的な背景がある。日本の場合も表示制度の確立とともに、確固とした食料供給政策が求められている。

 厚生省がこれまで、遺伝子組み換え食品の表示は必要ないとしてきた根拠は、「ガイドライン」にもとづく審査と実質的同等性の概念であった。また、開発企業からは、安全性が確かめられたにもかかわらず表示することは、安全でないという誤った印象を与えるとする表示反対論が強く主張されてきた。

 しかし、遺伝子組み換え食品は、特に安全rtEの点でさまざまな問題を残している。消費者が遺伝子組み換え食品を選択するにあたって、もっとも有効な情報源は表示であり、消費者の知る権利を保証するとともに、食品企業の責任の所在をも明らかにするための手段として欠かすことができない。

 農水省は表示の実施を2001年から本格的に始めることを決めた。しかしながら、食用油やしょう油などが、組み換えDNAやそのDNAによって生じた蛋白質が残留しないとし、表示を不要とした点に問題が残る。