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予防医学や食品衛生学、毒物学などでいう許容性、耐容性の水準

 

 

 遺伝子組み換え技術を研究の対象とすることは原則的に自由である。しかし、この技術を実用化して、医療や消費生活上で有益な結果を得ることができるためには、技術自体の成熟度を正しく評価して、無理のある技術展開がなされないように、そのことによって不測の事態が発生しないようにすることが必要である。これは人類の歴史的な教訓であるということができる。

 最近、世界各地で、遺伝子組み換え作物・食品の安全性が確認できるまで、流通を一時停止するべきである、とするような提言が研究者団体や消費者団体によって行われている。これをうけて、1999年7月にはフランス政府がEU協議会に、遺伝子組み換え作物の流通を一一時凍結するよう提案する予定であるとの報道が行われた。

 遺伝子組み換え作物・食品の実用化が時期尚早ではないか、とされているのは、有用性、安全l生、必要性の3点について行われた技術評価の結果が次第に明らかになってきたためだと思われる。

(1)有用性の確認

 実際に、この技術がある生物に目的とする何かの特性を付加することができるか、ある生物から何かの特性を削除することができるか、既存の技術では不可能であったことを実際に可能にすることができるかどうかが有用性の観点から問われている。

(2)安全性の確認

 たとえ、その技術の有用性が証明できたとしても、その技術の適用の過程において、あるいは、その技術の成果である生産物などの安全性に問題がある場合には、実用化は時期尚早であるとしなければならない。もちろん、安全性に絶対はない。ここでいう安全性とは、既存の予防医学や食品衛生学、毒物学などでいう許容性、耐容性の水準を満たすものであることを意味している。

 さらに、有用性のある技術であっても、その安全性を検証するための手法が未完成であると判断される場合にも問題がある。遺伝子組み換え作物・食品の安全性について疑問があるとされるのは、組み換え遺伝子によってつくられる新規蛋白質の安全性などの検証技術が未完成であるとする批判があるためでもある。

 最終的に、安全性を確認するための公的なシステムに問題がある場合、たとえば、開発研究機関や企業において、有用性の確認に偏向した取り扱いがなされて、安全性を確認する国のシステムが適切に機能していない場合や消費者の安全を保証し、維持するための国や自治体のシステムが未完成であり、したがって、その機能に問題がある場合などがある。

 これまで遺伝子組み換え作物・食品の開発から実用化の過程において、安全性を検証するために、OECD経済協力開発機構)の場で、はじめて提起されたといわれる「実質的同等性」の概念が適用されてきたが、従来の食品衛生学的な毒物学的概念の適用が排除されていることには基本的に問題があるといわなければならない。

 さらに、安全性の審査がこれまでは、いわゆるガイドラインシステムによって行われており、企業の任意性を全面的に肯定して、食品の安全性の確保にかかわる法的な強制力が及ばないしくみになっていたことにも問題がある。かりに遺伝子組み換え作物・食品の有用性が認められたとしても、以上のような安全性の確保にかかわる考え方やシステムのあり方に欠陥が見られる場合には実用化が危惧されることになる。

(3)必要性の認定

 安全性が保証され、有用性が確認された場合に、なおかつ必要性の有無が問われることになる。何かをつくることができる点で有用であるとしても、つくられたものに社会的なニーズがあると認定されるかどうかが問われる。遺伝子組み換え作物・食品がその社会にとって必要であるかどうかが正確に検証されなければならない。現在から未来にかけての食糧農業問題を抱えた社会のなかで、このような先端的な技術の産物としての遺伝子組み換え作物・食品が必要であるのかどうかを判断するためには、自然科学だけでなく、社会科学的な考察もあわせて行うことが求められる。

 個別の先端技術の有用性を評価する場合には、次のような視点が重要である。

①現在だけでなく、将来的にもこの技術が有用であり、安全であり、必要であるといえるのか。
②保健、医療、農業経済だけでなく、生命倫理などの社会科学的な側面においても問題がないといえるのか。
③個別の商品としての利用過程だけでなく、開発、栽培過程での環境や生態系に対する影響などでも問題がないといえるのか。
④先進国、途上国のそれぞれの社会的な事情に相応するものであるのか。
⑤誰にとっての有用性、安全性、必要性であるのか。
⑥現状で、有用性の有無を評価するための資料が十分出そろっているといえるのか。