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1世代限定種子の開発

 遺伝子組み換え作物の研究が将来的にある種の希望をもたらすものであることは否定しないが、以上のようなグローバルな食糧問題にかかおる多数の問題要因を解消することなしに、遺伝子組み換え作物の有用性だけを過度に強調することには問題があるだろう。また、この問題に関連して、世界的な遺伝子組み換え作物の活用に関するシステム形成が全くできていない段階で、遺伝子組み換え作物・食品の効用を過信するわけにもいかないだろう。

 育種であれ、遺伝子組み換えであれ、人工的に作物の品種を限定することが生態系の保護の観点から問題がないとはいえない。各地域に固有の在来種が多様に存在していることが、長期的な観点から人類の食糧確保にとって重要であるという考え方もある。限られた遺伝子操作が、全世界的に栽培されるようになるというような構図は、もしも何らかの問題が発生した場合には対応することが困難な状況を作り出すことになるであろう。

 かつて、育種によるムギ、コメなどの品種改良作物が、いわゆる「緑の革命」といわれるような成果を残した。インド、パキスタンなどの諸国がその恩恵を被ったといわれている。しかし、その後の評価では、このような成果をあげるためには灌漑用水、肥料、農薬などの潤沢な供給にかかわる相当なインフラの整備が必要であり、結果的に富裕化と一部の小作農民の貧窮化の2分極化を促進することになったともいわれている。遺伝子組み換え作物の場合には、特許が先進国の企業に握られており、種子の独占、供給支配が強力に行われるであろうし、先進国による農業、食糧支配が今よりも強力に行われることになるだろう。このような背景のもとでは、21世紀初頭の世界的な食糧危機が、遺伝子組み換え作物によって解消されるとするような幻想は捨て去る必要があるのではなかろうか。

 遺伝子組み換え技術は長足の進歩を遂げつつあるが、その技術を適用して得られる新生物の安全性や生態系に対する影響に関しては、なお不明の点が多く、有用性を期待して作られた遺伝子組み換え生物を開発し、認証し、栽培し、輸出入して利用するために、実際にどのように社会的な環境を整備して対処するのかという点で、現状には問題点が多々残されている。

 こうした問題点を放置したまま、いたずらに有用性を旗幟として、開発を先行させることには問題がある。たとえば、遺伝子組み換え作物、食品の公的認証システムが十分に整備されていない前提で登場してくる商品の、有用性、必要性に関する論議は、ほとんど無意味であるといわなければならない。

 もちろん、科学的な研究は自由である。しかし、安全性などの検証体制が不完全なまま、有用性追求の名目で、開発技術が展開されることはむしろ危険である。たとえば、その実は企業の利益追求という本音が隠されていながら、表向きには世界的な食糧危機に備えるために、という名目での開発技術が、やみくもに推進されて、その商品がいやでも消費者の口にはいるというような、もはや引き返すことのできない既成事実をつくりあげてしまうことは許されない。

 たとえば、最近のターミネーター遺伝子を組み込んだ種子の開発技術などにいたっては、生産者農家や消費者のためとはいい難く、企業の独占、利益を確保することだけが目的であるのは明らかである。現時点で、USDAに対して、世界の62か国からモンサント社に対する反対意思のレターが届けられてたと報道されているのも、全く当然のことであると思われる。

 また、基本的な原因や障害を排除するために努力することなく、発生した被害や影響を対症療法的につくろうために、遺伝子組み換えにかかわる先端技術が推進される場合がある。しかもこの技術が、来るべき地球の将来的な課題を解決するために有川であるとして、バラ色の希望をもって語られるような場合があることにも注意しなければならない。矛盾の上に矛盾を積み重ねることは最終的に極めて危険な結果を生み出すことになるだろう。