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中外製薬のアクテムラ:『抗体医薬』の用語解説

 

 中外製薬が開発したアクテムラは、日本発の抗体医薬として画期的な治療薬になると期待されています。アクテムラは、体内のインターロイキン6(IL-6)受容体という機能分子に結合して薬効を発揮します。IL-6とは、免疫システムをつかさどるタンパク質で、この機能を阻害することで、自己免疫疾患と言われるリウマチをはじめ、クローン病(小腸や大腸に炎症や潰瘍ができる慢性疾患)、キャッスルマン病(希なリンパ増殖性の疾患)、全身性エリテマトーデス(全身性の炎症性疾患)などの難病の治療が可能になると考えられています。

 リウマチに対する抗体医薬としては、すでに先行する製品が市場に存在しています。レミケードやヒューミラ、抗体医薬に類似した分子構造を持つエンブレルが、1990年代後半以降、それまでの抗リウマチ薬をはるかに上回る薬効を示し、大きな市場を創造しました。 3製品の欧米市場での売上合計は99億ドル(約1.2兆円)に達します。日本では発売時期が遅れたこともあり、2006年度時点ではレミケードとエンブレルの2品による売上は300億円強に留まっています。

 アクテムラにとって、先行品の牙城を崩すことは簡単ではないかもしれませんが、市場の大きさには期待が持てるところです。また、先行する3品がすべてTNF- aという体内の分子を標的にしておりメカニズムが同一であるのに対し、アクテムラはIL-6を標的とするユニークなメカニズムを持っている点で、新しい治療の選択肢になる可能性があります。

 

抗体医薬について

 抗体医薬とは、タンパク質の一種である抗体を有効成分とする医薬品で、バイオテクノロジーを活用して生まれた「バイオ医薬品」の一種です。抗体は、私たちの体を病原菌などの外敵から守る免疫システムの最前線ではたらいているタンパク質です。免疫システムは、私たちの体にある仕組みで、「自己」と「非自己」を選別し、非自己を「異物」として排除します。

 抗体は、特定の標的分子に強力に結合(抗原抗体反応)することで外敵を撃退するわけですが、この性質を薬に応用したのが抗体医薬です。古くからヘビに噛まれたときに血清を注射しますが、これは血清に含まれる抗体がヘビの毒素を中和することを応用したものです。ちなみに、血清療法は100年以上前に北里柴三郎と共同研究者のベーリング破傷風などの毒素を中和する抗毒素(抗体のこと)を血清中に見出したことに始まります。後にベーリングは抗毒素の発見によってノーベル賞を受賞しています。

 こうした伝統的な血清療法において血清は動物からの抽出物を使いますが、近年のバイオテクノロジーによって有効成分である特定の抗体を1種類だけ製造することが可能になりました。日本人ノーベル賞受賞者利根川進博士が発見したようにこの世にある無数の物質のそれぞれに対して、私たちの体は無数の抗体を作り出すことができます。したがって、病気の原因になっている物質が特定できれば、それに対する抗体医薬を開発することが可能になります。

 すでに抗体医薬は医療において、また、製薬企業のビジネスとしても大きな成功を収めています。世界で最初の抗体医薬は、1986年発売の臓器移植時の拒絶反応を抑制するオーソクロ一ンでした。ただし、当初はマウスの抗体でできていたため、患者の体がネズミの抗体を異物として認識し、アレルギーのような反応が出る問題がありました。その後、遺伝子工学の進歩により、マウスに人間の抗体を作らせることが可能になり、実用性の高い抗体医薬が次々に発売されるようになりました。

 ただし、抗体医薬には独特な性質があります。まず、抗体医薬は血清と同じで注射薬になります。飲み薬のような手軽さはありません。また、製造コストが高いため、症状の重い病気に用途が限られる傾向かあります。 2006年までに先進国で21種類の抗体医薬が発売されています。その市場規模は前年比で約40%成長し約2.2兆円に達しました。ただし日本市場は、発売時期が遅れたこともあり、数百億円の規模に留よっています。