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英語第一主義:カネや女よりも英語


 どうも英語が聴きとれないとヒアリングの弱さを歎き、1日1時間半のリスニング用のテープ聞くと決めたノルマを2倍の3時間聞くようにしても無駄だということだ。それならば、あとの1時間半、1本の洋画を観るとか、聞き流しにしていたテープを30分間短かくしても、hear(集中せずバックグラウンド・ミュージックとして聞く)をlisten (集中して聴く)に替えるというふうに、集中力を高めることだ。このようなリズムをとることにより、英語の語感を増やすというのが英語道二刀流がめざすeffectivenessである。

 人はプラスかマイナスかで判断するものだ。

 交渉する時など、What's in it for us? (われわれにどんなメリットがあるのかね)とストレートに聞く人が多い。話がうますぎると、私はWhat's in it for you? (じゃ、あな
たにはどんなメリットが?)と問い直す。

 英語道でいえば、What's in it for my English? (私の英語にとってどんなメリットがあるのか)と問うことである。

 このmyのあとのEnglishをfinance (金融)に置き換えると、金融道になる。剣になると剣道。茶になると茶道。女になると色道になる。それだけのことである。要するに戦略上のプライオリティーの問題である。いったん英語道に心を寄せると、英語が「主」になりカネも女もすべて、「従」になるのだ。

 「従」は「主」を支える間はプラス、「主」を邪魔する「従」は、いかに非情といわれようとも切り捨てる。しかし、カネであれ女であれ、自分が惚れた英語に近づくうえで役に立てば、ひるむことなく利用することである。合理主義者の武蔵は女をめとらず、旅先で女を買った。恋愛に心が奪われることより、時間が奪われることを異常に恐れたからである。英語の修行にマイナスになれば、すべて斬る。なにか(たとえそれが一外国語であれ)を求める人は、思いわずらうことをwaste (無駄)と考える。

 合理主義者にとり妥協は敵である。

相手のsize up を忘れるな

 〈第六に、諸事目利を仕覚ゆる事〉

 Learn to see everything accurately.

 「目利」とはsize up (品定めをする)のことである。

 兵法者の目利きには、人と武器(脇差、刀、太刀、薙刀、槍)の二つがある。人にも武器にも本物(real)とニセ物(unreal)がある。

 だが目利きのいい人は、人がunrealであっても、その人の英語がrealであれば英語に近づく。またその人の英語がunrealであっても、人がrealであれば、その人に近づく。どちらでもなければ、近づかない。だが、ほとんどの英語武芸者には、この種の目利きができないとみえて、「人がきらいならその人が好きな英語もきらい」とか「英語が好きだから、英語のできる人も好きになる」という間違いを犯しやすい。

 英語が好きだから、英語を話す国民が好き。そして英語圏の文化がすべて好き、という人がいる。私も英語人生にどっぶりつかっていることから、ある関西人からこんなとんでもないコメントを受けたことがある。

 「センセ、英語を極めるために、外国の女と結婚されたんですってね。さすが、という噂ですわ。」

 この発言には傷ついた。金髪女性とつきあったことはあるが、結婚しようと思ったことは一度もない。なぜか。それは武蔵と同じように、固定を嫌うからだ。いったん特定の女一日本人であれ外国人であれ一に惚れたら、言葉を失なってしまうからだ。 You know what l mean? からクエスチョン・マークを取り除き、あとは無言でコミュニケーションできるようになる。そのとたん、英語はストップする。

 その反対に、家庭内で文化衝突が過激化すればどうなる。ミソ汁に、砂糖やバターを入れる子供。 why (なぜ)で攻める妻に、because (なぜなら)で答えられない夫、口論が絶えず、議論(argument)も破壊的になる。「もうガイジンの女はいやだ」となれば、敵も「もうディベートのできない日本男性はコリコリ(l won't marry another Japanese man.)」と捨てゼリフを吐き√協議離婚となる。そのあたりから英語が翳り始める。ケンカ英語は伸びても、英語そのものが敵性語に変わるから、感傷的な理由から英語が心から離れてしまう。heartless English では、心の触れ合い(touchy-feelyness)からますます遠ざかる。あれだけ英語がhealing (癒し)に役立つと言った人間が、もう英語なんかいや、と愛が憎しみに変わる。そんな人に英語で話しかけても、healing wounds (傷を癒す)ではなく、reopen old wounds (古傷に触れる)ことになる。すぐに憎しみに変わる。愛など口にしないのが英語道だ。

 女に惚れても、英語に惚れても、英語はストップする。どっちにころんでも、ダメ。(Damned if you do, damned if you don't.)

 「固定は死。目利きを忘れるでないぞ」と武蔵はいう。
『英語は格闘技』 松本道弘