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抗がん剤の市場:分子標的薬の台頭

 

 今後拡大が見込まれる領域としては抗がん剤があげられます。がんは日本における死亡原因の第1位であり、毎年50万人以上が新たにがんと診断され、30万人以上ががんで亡くなっています。高齢化によってがん患者はさらに増加する傾向にありますが、必ずしも満足のいく治療は提供されてきませんでした。

 しかし、近年抗がん剤の中に「分子標的薬」という新分野が台頭し、目覚しい発展を見せています。分子標的薬とは、分子生物学的な知見に基づいて、がん細胞の表面や内部にある特定の標的分子に作用する抗がん剤です。明確な薬効がある一方で副作用が少ないという特長があります。これに対して従来の抗がん剤は、がん細胞だけでなく正常細胞にも障害を与えるため、効果よりも副作用のほうが目立っていました。

 欧米で大腸がんの標準治療に使われる抗がん剤アバスチンが、日本でも2007年に中外製薬から発売されました。厚生労働省の要請を受け、例外的に国内の後期臨床試験を省略しての早期の承認になりました。アバスチンは、手術不可能な大腸がん患者の余命をおよそ5ヶ月間延長する効果を証明しました。アバスチンは、がん細胞に向かって伸びる血管の形成を阻害することでがん細胞の栄養源を絶つメカニズムの薬です。米国では2004年に発売され、2年目に売上高が11億ドル(約1,300億円)を超えました。大腸がんに加え、肺がん、乳がん、腎がんでも同様に延命効果を示しており、幅広いがん種での実用化を想定すると、売上高世界最大の抗がん剤になると予想されています。

 スイスのノバルティスによって米国で2003年に発売されたグリベックは高い薬効で医療関係者を驚かせました。ある種の白血病において、白血病を原因とする死亡率を、薬物療法開始5年後で4.6%にまで抑え込むことを実証しました。薬だけでここまでの効果をあげることは過去にありませんでした。慢性骨髄性白血病によく見られる染色体の異常によって生まれるがん遺伝子bcr-ablのはたらきを阻害するという、遺伝子研究に根ざした画期的な医薬品と言えます。このように技術進歩の節目を迎えているかに見える抗がん剤の領域を制する企業は、将来の製薬業界の勝ち組になると考えられます。