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医薬品の粗利益は自社品、導入品、仕入品で異なる

 

 製薬企業のビジネスにおいて、利益の出方はしばしば製品によって異なります。「ある薬を100億円売ったときの営業利益は50億円ですが、別の薬を100億円売っても営業利益は10億円にしかならない」といったことが起こり得ます。これは、その製品の開発の経緯、製造販売の方法によって決まってきます。各社によって利益率が異なるのも、利益率の良い製品をどれだけ保有しているかが、様々であるためです。製薬企業が販売する薬は、大きく自社品、導入品、仕入品の3種類に分けられます。

 第一の自社品は、自社で一から開発した製品で、粗利益率が高いのが特徴です。粗利益率は80%かそれ以上、ときには95%を超えることもあると推測されます。分析では、最も粗利率が高いケースでは、第一三共コレステロール低下剤メバロチンは高いときには98%程度の粗利益率だったと推測しています。ピーク時の1998年度には1,288億円の売上高をあげたことを考えると、メバロチンから得られた利益がいかに大きいかがわかります。

 第二の導入品は、これに対して、他社が途中まで開発した製品を、ある段階でライセンス契約を結び、その後の開発を引き継いで販売に至った製品です。この場合、最初に開発した会社が基本特許を持っており、特許権に対してロイヤリティを支払う必要があります。このロイヤリティが売上原価に含まれるため、粗利益率は自社品に比べて5~20%ポイント低くなります。

 ロイヤリティの料率は交渉ごとですが、ライセンス喫約のタイミングによっておよそ決まります。開発の初川に契約すると料率は低くなりますが、開発後期になり製品化の見通しがはっきりしてきた後で契約すると料率は高くなります。また、導出元が製造まで行う場合には、製造コストに利益を上乗せした金額で製品を仕入れることから、粗利益率はさらに低下します。

 かつて海外の製薬企業の開発品を日本企業が導入することが多くありました。導入元が製造をするケースが多かったのですが、粗利率は40~60%のレンジが多かったようです。このような導入品の例としては、アステラス製薬が販売するコレステロール低下剤リビドールがあります。 2006年度の国内売上高は947億円でしたが、粗利益率は40~60%の水準にあると推測されます。

 第三の仕入品は、他社が開発を終えたものに対して、販売にだけ参画する契約を結んだ製品です。仕入原価は高く設定されており、粗利益率は最も低い形態です。通常、特定の領域に強い販売力を持つ会社が、自社のリフースに空きがあるときに、仕入品の販売で営業効率を高める目的で行われる取引です。


ライセンスを出す導出側の高い利益率

 導入品、仕入品を逆の立場から見てみましょう。新薬を開発したけども、様々な理由から自社で最後まで開発せずに他社にライセンスアウトすることもあります。理由としては、その薬の疾病領域が自社の注力領域から外れている、海外などでその地域に販売網を持だない、などが考えられます。ライセンスアウトした製薬企業は、製品が発売された後、売上高の一定率のロイヤリティ収入を得ることになります。導入品を製造し販売する企業から支払われるロイヤリティは受け取る側から見れば、売上高になります。ただ、この売上には対応する売上原価、販売費がありません。つまり売上高イコール営業利益、利益率100%のビジネスになります。

 このビジネスの最大の成功例は、塩野義製薬が開発したコレステロール低下剤クレストールでしょう。クレストールは英国のアストラゼネカに全世界の開発販売権がライセンスアウトされ、2003年から欧米で発売されました。 2006年度に塩野義製薬アストラゼネカから受け取ったロイヤリティ収人は194億円でした。この収入があることで塩野義製薬の営業利益は194億円押し上げられています。しかも、このロイヤリティは毎年拡大し、2009年度には600億円に近づくという見通しを会社は示しています。クレストールから得られる塩野義製薬の利益は驚くばかりですが、最終製品を販売しているアストラゼネカが得る利益はこれをはるかに上回ることは、なお驚きです。

 開発側の企業が製造を行う例もあります。そうしたケースの成功例としては、第一三共(当時は三共)が米国のブリストル・マイヤーズスクイブ(BMS)にライセンスアウトしたコレステロール低下剤メバロチンがあります。米国ではプラハコールの名称で販売されました。

 第一三共メバロチンのバルク(薬効成分の粉)を製造し、BMS向けに出荷しました。バルクの対価は、ロイヤリティ相当の金額と、製造コストに利益をのせたものの合計と考えることができます。製造を行う分だけ、ロイヤリティだけ受け取る場合より、利益の絶対額も大きくなるはずです。

 第一三共の収益構造は、バルクの対価が売上となり、製造コストが売上原価になり、販売費は事実上ゼロになります。第一三共メバロチンの輸出売上は、ピーク時の2003年度には983億円に達し、自社による国内販売分と合わせて、収益の柱になりました。

日共同販促の対価で利益が流出する販売提携

 これまでは、誰が製品を開発したかによって収益構造が変わってくる例を見てきました。ここからは、販売面での提携が収益構造に影響を与える例を見ていきます。日本企業が海外に進出する場合に、その国で強力な販売力を持つ企業との問で共同販売することがよくあります。販売提携によって利益の一部は販売パートナーに移転されますが、知名度の低い日本企業にとっては、場合によっては提携したほうがトータルの利益を大きくすることができます。

 一例として、エーザイのアルッハイマー型認知症治療薬アリセプトの米国販売を取り上げましょう。エーザイにとって、アリセプトは米国で販売する初めての製品でした。さらに、当時はアルッハイマー型認知症に対する2番目の薬剤として登場しましたが、先行薬が副作用問題で売上が伸びず、事実上アリセプトが市場を作るという難しい課題もありました。

 そこで米国市場に精通し、販売力の強い大手製薬企業のファイザーと販売提携したのです。アリセプトの場合は、ファイザーの営業の成果であっても、エーザイの営業の成果であっても、最終的な製品売上はすべてエーザイの売上高になります。ただし、ここでのポイントは、共同販促の対価がファイザーに支払われることです。

 この対価に関する条件は、両社が交渉し契約によって決められます。契約内容は通常守秘義務に守られており、細かい内容は外部からはわかりません。実際には、販売提携のスキームやその会計処理が非常に複雑になる場合もあるようです。したがって、以下に述べるアリセプトの契約内容や会計処理については厳密には事実と異なる可能性があります。あくまで外部から見て、単純化された1つの分析として紹介したいと思います。

 エーザイの収益構造は次のように推測できます。最終売上高は、すべてエーザイの売上高となります。そしてアリセプトの製造コストが売上原価になります。販売費は、エーザイアリセプトを販売するための費用と、ファイザーへの共同販促の対価に分かれます。この共同販促の対価が大きいため、エーザイが単独にアリセプトを販売したときに得られる営業利益に比べて取り分は少なくなります。

 一方、ファイザーから見ると売上高はエーザイからの共同販促の対価に相当します。これにファイザーの営業にかかる販売費が計上され、残りが営業利益になります。会計処理上は、最後の営業利益のみを共同販促収益として計上するというやり方もあります。いずれにせよ、アリセプトのビジネス全体の利益はエーザイファイザーに契約に従って分けられるということです。

 このような形態をプロフイット・シェアリングと言います。エーザイにとっては同じ売上に対する利益は落ちますが、ファイザーの参画によってトータルの売上が拡大すれば、提携によって利益の絶対額は増加することになります。