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医薬開発:化合物探索から製品化までの成功確率は0.001%

 

医薬品の研究開発費は大手製薬企業の平均で売上高の17%を占めるため、これが利益水準を大幅に押し下げていることは碓かです。

 研究開発費は、個別製品の売上動向とは無関係に計画されることが多いと思われます。「多くても売上高の20%をメドに」などと全社売上高との対比で一定の予算のメドを持ちながらも、将来の収益の柱になるような有望なプロジェクトには惜しみなく研究開発費を投入するという考え方が一般的です。新薬を出すことは製薬企業にとっての生命線だからです。
いつまでも古い製品で儲け続けるわけにはいきません。新薬がなければ、ビジネスは縮小均衡に陥ってしまいます。

 新薬開発の問題は、成功確率が著しく低いことです。化合物探索の段階から製品化までの成功確率は1万分の1、臨床試験を開始してから製品化までの成功確率は5分の1です。ある製薬企業の経営者は言いました。「薬の失敗確率をごくわずかでも改善できれば薬の開発の効率は格段に高まる」と。つまり、化合物探索の段階から製品化までの“失敗”確率は99.99%、この失敗確率を0.01%だけ減らせれば、成功確率は0.01%から0.02%へ、つまり2倍に上がると言います。しかし、失敗確率を0.01%下げる妙案はないとのことです。

 そこで、研究開発の効率は上げられないと認めたうえで、研究開発費の規模を大きくすれば、その分成果物が増えるという考え方が出てきます。 タフツ大学の研究者は、米国で製薬企業が1つの製品を上市するには8.2億ドル(約1,000億円)のコストがかかるという分析を発表しました。これは、1つの製品を上市するにあたって、失敗した無数の問発プロジェクトにかかったコストも、その1つの成功例にかぶせる形で試算されたと言います。

 仮にこの数字を信じるとすると、研究開発費を年間1,000億円かければ、平均して1年に1品目の新薬を発売できることになります。同じように考えると、研究開発費が年間100億円しかなければ、10年に1個しか新薬が出せないことになってしまいます。これでは経営が成り立たないというわけです。日本の製薬企業の中にいつしか「世界で戦うには研究開発費が年間1,000億円は必要」といった議論が出てきたことも、こうした考え方が背景にあるものと思われます。

 しかし、規模がモノを言うという考え方に異論を唱える人もいます。良い発明は、究極的には研究者のひらめきや偶然に端を発することが多いようです。これは、お金を使ったからといって出くるものではありません。企業規模の小さいバイオベンチャーにも成功している企業があります。イノベーションを生み出すために何か良い方法があって、そのための工夫こそすべきだという考え方もあります。しかし、残念ながら、その結論は見えません。売上高の17%も費やされる研究開発は、証券アナリストからみても、ブラックボックスのままなのです。

 証券アナリストにとって、より現実的な研究開発の評価は、臨床試験の後半にある開発品の潜在力を評価することです。フェーズ3試験までくれば、ある程度の成功確率を期待することができるためです。実際、証券アナリストによる製薬企業の分析には、臨床試験後期の開発品の評価が重要な要素を占めます。対象疾患の患者数、現在の治療法に比べてどれくらいのメリットがあるか、競合する薬はあるか、薬のコンセプトを臨床試験によって示すことができそうか、保険制度の中で支払いを受けられるか、といった観点でその薬の潜在力を評価します。

 将来5年程度の間に出てくる新薬は、現在フェーズ2またはフェーズ3にあります。有望な新薬候補がこのステージにある会社の業績は5年以内に急拡大を始める可能性があります。会社の将来性を評価する株式市場では、こうした有望な新薬の見通しによって株価が大きく動くことがあります。