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ブロックバスターの量産:FDAがユーザー・フィーに依存

 

 世界最大の米国市場を中心に医薬品業界のこれまでと今後の課題について見ていきましょう。製薬企業は90年代半ば以降、1剤で10億ドル(約1,200億円)の年商を超えるブロックバターに成長が牽引される黄金時代を築きました。しかし、2000年代に入ってそれまで成功してきたビジネスモデルの限界が見え始め、現在は新しいビジネスモデルを模索する過渡期に入ったと考えられます。

 1990年代半ばからの高成長のキーワードはブロックバスターです。この時期製薬企業は年商10億ドル以上が期待できるような新薬を次々に発売しました。その最たるものが、ファイザーコレステロール低下剤リピトールです。 2005年の世界売上が122億ドル(1.5兆円)と世界最大の売上をあげています。おそらくその半分は営業利益としてファイザーの業績に多大の貢献をしていると推測されます。単一の製品でここまでの利益をあげるものは、おそらく全産業を見渡しても数少ないのではないでしょうか。

 日本企業では武田薬品工業を除けば、会社全体の利益がリピトール1剤の利益に遠く及ばないのが現状です。巨大な売上をあげる製品はリピトールだけではありません。 2006年の製品別の世界売上ランキングでは、30億ドルを超える製品が18品、10億ドルを超える製品は100以上に上ります。そしてその多くが1990年代から2000年代の初頭にかけて発売されました。

 これは、技術進歩の賜物であると同時に、製薬企業がうまくビジネスモデルを作り上げた成果と見ることもできます。製薬企業は自身のビジネス環境を有利にするために政治力をも発揮してきたと考えられます。それを物語るのが、1992年に制定されたユーザー・フィー制度です。製薬企業がユーザ-・フィーを支払うことと引き換えに、FDA による新薬審査を迅速化する法律です。

 この法律の制定後、FDAが新薬の審査にかける時間は短くなり、1993年の27.2ヶ月(中央値)から1998年には12.3ヶ月になりました。そして、時とともにFDAの活動がユーザー・フィーに依存するようになっていきます。 2006年のFDA予算では医薬品関連4.6億ドルのうちほぼ半分の2.2億ドルをユーザー・フィーで賄うことになりました。このよ
うな仕組みの中で、FDAは主な資金の出し手である製薬企
訓こ不利益となる判断ができるでしょうか。

 実際、製薬企業は制度を追い風に新薬を次々に発売することができました。 1980年代には、ある領域で画期的な薬が発売されても、同一カテゴリーの2番手が発売されるまで4~5年かかることが普通でした。しかし、1990年代に入り2番手の新薬が1年以内に発売されることも珍しくなくなりました。鎮痛剤でも1番手のセレブレックスが1999年に承認を取得し、2番手のバイオックスは同じ年に承認を取得しています。

 さらに、米国では、臨床試験プラセボ(placebo : 偽薬)との比較で優りさえすれば、新薬として承認されます、日本では、既存の標準薬に薬効で劣らないことを示す必要があり、この観点では米国の承認審査基準は甘かったと言えるでしょう。この結果、同じコレステロール低下剤でもリピトール、ソコール、プラハコールと互いにわずかしか違わない薬がたくさん発売され、それぞれ大型化することになります。

 大型化には、1997年のDTC (direct to consumer : 消費者向け直接広告)の規制緩和も一役買いました。日本では目にすることはありませんが、米国では最も目にするテレビコマーシャルが病院で処方される薬の広告です。男性機能改善剤バイアグラは、アメリカン・フットボールのスター選手などのイメージを借りて、消費者の認知度を高めることに成功しました。

 このように、開発した薬はプラセボという低いハードルを越えて承認され、積極的なプロモーションにより早急に大型化していきました。 1980年代には大型製品が20億ドルの売上を超えるのにおよそ10年かかりましたが、1990年代には5年以内が当たり前になり、2年余りで20億ドルにのせる製品も出てきました。

 製薬企業は、病気を治療するだけなく、新たに病気を作り出しました。正確にはそれまで病気と思われていなかった領域に新しい薬物治療のニーズを創出したのです。思えばコレステロール値が高いことは、昔は病気とは思われていませんでしたが、現在は治療の対象になります。同様に、更年期障害、全般性不安症、睡眠障害、男性機能不全などに対して現在は積極的な薬物療法が進められています。そして、米国では生活習慣に気をつけるのではなく、問題が起きたら薬で対応するというカルチャーをも育てたのではないかとさえ思われます。