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ファイザーはリピトールの臨床試験に830億円を投入した

 製薬企業の黄金時代には、企業規模がモノを言いました。ブロックバスターの開発にはお金がかかります。ブロックバスターは対象患者の裾野が広く、承認のために行う臨床試験が、数千人から1万人以上の被験者を集める大規模なものになるためです。新薬開発にはリスクがつきものであり、2001年には新薬1品を上市するためには82億ドルかかるといった試算(タフツ大学)も出されました。これは、新薬の直接的な開発費に、開発中止となったプロジェクトのコストを上乗せしたものです。ただし、その計算前提には不明瞭な点もあります。

 それはさておき、こうした開発費を賄えるのは、研究開発費を潤沢に拠出できる大手製薬企業になります。 1日でも早く承認を取得し、発売後にはDTCを含めた積極的なマーケティングにより売上の急拡大を目指します。

 製品の売上は投入したコストやMRの人数におおむね比例すると考えられていました。薬の効き目は関係ないといえば言いすぎですが、薬の特性の差はわずかであれば、販売力によって売上が変わってくるという現実があります。大手は、承認取得の後にも自社製品の臨床試験を継続的に実施し、他者品と比べた特徴を、たとえそれがわずかなものであっても際立たせます。

 ファイザーはリピトールに関して、こうした臨床試験に1997年以降7年余りで累計7億ドル(830億円)超を投人したと言います。このように、大手が販売するほどよく売れ、その結果大手ほど業績が拡大し、研究開発費を拠出できるよ引こなるので、新薬もたくさん出る、というように規模の経済がはたらくと考えられました。

 一方、2000年にはクリントン・フレア共同声明が発表されました。米国大統領と英国首相が、人間の遺伝子を構成するDNAの塩基配列(ヒトゲノム)の解読がほぽ終了したことを報告しました。これからはポストゲノムの時代と言われました。それまで、薬の開発は膨大な化合物から、有効な物質を手探りで探り出すというやり方に近かったと言えます。しかし、ヒトゲノム解析が終了したことで、人間を構成する部品の1つ1つの設計図がわかったことになり、病気のメカニズムの解明や治療法の開発が加速すると考えられました。人類を悩ませてきた数々の難病の治療法が、あたかも打ち出の小槌のように生み出されるという観測もありました。

 現在は、それほど単純にはいかないことが周知となっていますが、当時は多くの人がそうした幻想に取りつかれていました。ただ、それを実現するためにも、ヒトゲノムの情報を網羅的に解析するための多額の研究開発費を誰よりも早く投入する必要があります。ポストゲノム時代の研究開発競争という観点でも、やはり巨大製薬企業には歯が立たないという認識が広がりました。

 欧米の大手製薬企業は圧倒的な力を持ち、勢いがありました。株式市場では医薬品業界は景気による利益変動の少ないいわゆるディフェンシブセクターに区分けされます。しかし、90年代半ば以降の医薬品セクターは成長セクターとして評価されていました。そして成長の継続、さらなる上振れを株式市場は要求し続けたのです。