医薬翻訳サービス

薬理学、生化学、統計学に精通した翻訳士が対応いたします

特許切れが巨大製薬企業の合併をもたらす

 

 2000年代に入り巨大製薬企業のビジネスモデルにほころびが見え始めます。ここでは、ブロックバスターの特許切れと、バイオックスの副作用問題をキーワードにその変造をたどっていきます。

 米国では、医薬品の特許が切れると安価なジェネリック薬が上市され、オリジナルなブランド薬の売上は1年で8割以下に減少することも少なくありません。これがブロックバスターの場合には、大手製薬企業といえども業績に良人な彫響を受けます。当然、大手製薬企業は、特許切れ対策に血道をあげることになります。

 法律で認められた特許期間の延長を最大限享受するのはもちろん、物質特許以外にも周辺特許を固めることで防衛しようとします。さらに、剤形を変えたり、投与頻度を少なくした徐放製剤にしたり、別の薬との配合剤にしたりと、ジェネリック薬とは区別できる製品ラインナップをそろえます。しかし、この程度の施策では市場を防衛しきることはできません。

 そこで、特許切れ対策の本命は、後継品の開発になります。特許が切れそうな薬と同じ疾病領域に新薬を投入し、特許切れによる売上の減少を、その後継品の売上拡大でカバーする戦略です。典型的なやり方は、光学異性体の開発です。自然界には化学式は同一でも、ちょうど右手と左手のようにお互いに鏡に移した像の関係にある物質があります。このうち、片方だけを純粋に取り出したものを新薬として開発する手法です。特許が切れそうな製品が、右手と左手の混合物だとすると、薬効を持つ片方の手に当たる成分だけを取り出したものが後継品になります。

 アストラゼネカは米国でピーク時売上が42.5億ドル(約5,100億円)に達した抗潰瘍剤プリロゼッタの特許が2002年に切れるのに際して、その前年に単一の光学異性体ネキシウムを発売しました。ネキシウムは上市3年目には24.8億ドル(約3,000億円)に大型化し、後継品としての役割を果たしたと言えます。

 しかし、そのような都合の良い後継品を毎回投入できる保証はありません。その場合には、例えばバイオベンチャーなどの第三者が開発中の新薬の中で後継品になり得るものを探し、ライセンス導入や企業買収を行います。こうした施策がすべて尽きたとき、特許切れによる業績の低迷を受け入れるしかなくなります。株価の下落も避けられないでしょう。

 株主の力の強い米国で、株価の下落を何とか回避はできないものでしょうか。実は、最後の手段が残されています。それが合併です。合併すると企業規模が拡大し、特許切れの影響は相対的に小さくなります。また、合併後のリストラによるコスト削減が見込まれ、特許切れによる利益の減少をカバーすることができます。実際、特許切れがM&Aの引き金になることがあります。例えば1995年に英国の製薬企業グラクソとウェルカムが合併し、グラクソ・ウェルカムが誕生しましたが、グラクソの抗潰瘍剤ザンタックの特許切れが引き金になったとの見方もあります。

 特許切れはときに巨大製薬企業の合併をもたらすほどのインパクトを持ちます。 1990年代に立て続けに発売し、次々とブロックバスターになった製品群は、2000年代の後半から2010年前後にかけて集中的に特許切れを迎えることが見通されています。

 例えば、ファイザーは2006年からの7年間に、主力品だけで2005年の売上高の62%に相当する275億ドル(3.3兆円)分の製品の特許が切れると予想されます。この数字はメルクでも同じ62%になります。他社においても、似たような構図が成り立ちます。

 かつてない規模の特許切れの事態に、大手製薬企業はどう立ち向かうのでしょうか? 当初製薬企業の経営陣は新薬開発によって、なんとかしのげるという見通しを示していました。しかし、問題は思ったより深刻なことがわかってきました。