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気管支の過敏性について


 アレルギー以外の原因でも発作はおこる

 子どものぜんそく発作といえばアレルギー反応が原因というのは、まずいわれることですね。たしかに多くの子どもたちにとって、アレルギー反応はぜんそく発作をおこす大きな原因です。

 しかし、カゼのあとにひきつづいておこる発作や、タバコの煙に巻かれたときにおこる発作、気候の変化が引き金になっていると思われる発作、運動した直後におこる発作、このような発作は、たとえばダニにたいしてアレルギーをもっていることと直接の関係はなくおこるわけです。しかし、ぜんそくの人だったら、多かれ少なかれこのような経験をしています。

 こうしてみると、アレルギー反応だけで小児ぜんそくの原因を説明するのは、かなり無理があるということがおわかりいただけると思います。

 実際、医師が「気管支ぜんそく」という病気を診断するとき、ダニやほこりにたいしてアレルギー反応があるかどうかは参考にしますが、その患者さんがアレルギー検査で陰性だからといって「気管支ぜんそくではない」などとは考えません。

 逆に、アレルギー体質であっても鼻炎や皮膚炎だけで、ぜんそくではないという人もたくさんいます。

 

 「気管支が過敏」なことが特徴

 それでは、気管支ぜんそくの人全員に共通していることは何でしょうか。それは気管支がふつうの人よりも過敏だということです。

 このことをいいかえると、ふつうの人だったら反応しないようなわずかな刺激にも反応してしまい、気管支の平滑筋が収縮したり粘膜がむくんだりして、ぜんそく発作をおこすということです。これを私たち医師は「気管支の過敏性」ということばで表現しています。

 気候の変化も、タバコの煙も、運動も、カゼも、疲れも、そしていろいろなアレルギー反応も、過敏な気管支にとっては刺激となってしまい、発作をひきおこす原因になるのです。さらに、今までの研究で、ぜんそくが重症な人ほど、より気管支が過敏だということもわかっています。

 ですから、気管支が過敏であることがぜんそくの本質であり、気管支を過敏でなくすることこそが、ぜんそくの治療になるわけです。

 気管支が自律神経失調症になっている

 「過敏な気管支」はどうしていろいろな刺激に反応するのでしょうか。原因にかんしては、かならずしもすべてが解明されているわけではありませんが、まず気管支の太さを調節している自律神経のことを説明しましょう。

 自律神経というのは、心臓や腸の動き、汗の出ぐあいなど、人間のからだをちょうどよい状態に保つための調節装置のような役目をする神経です。手や足の筋肉を思いどおりに動かす運動神経や、痛みや温度を感じる知覚神経とはまったくちがうものです。

 気管支平滑筋もこの自律神経が調節しています。自律神経には、交感神経と副交感神経があります。交感神経を刺激すると気管支平滑筋の緊張を和らげるようにはたらき、副交感神経を刺激すると気管支平滑筋が収縮するようにはたらきます。つまり、このふたつの神経が気管支平滑筋の状態を調節しているのです。

 ところが、ぜんそく児はこのバランスがわるく、ちょっとした刺激で副交感神経が刺激され、気管支平滑筋が縮んでしまいます。いいかえると、気管支が自律神経失調症になっているともいえます。

 つねに炎症がおこっている

 もうひとつ「気管支の過敏性」を理解するうえで忘れてはならないのは、過敏な気管支には、発作のときだけではなく、つねに炎症がおこっているということです。気管支粘膜に炎症をひきおこすさまざまな細胞から放出される物質の影響で、粘膜がところどころはがれおちたような状態になっています。

 そのため、いろいろな刺激を受けやすく、粘膜がむくんだり、タンが多くなったりします。さらに、その影響を受けて副交感神経が刺激され、それがまた気管支平滑筋を収縮させるといったような複雑な反応もおこるようになります。

 いわゆるカゼをこじらせた気管支炎とぜんそくによる気管支炎は違うのですが、気管支ぜんそくも広い意味では炎症を伴う病気、つまり気管支炎であり、その炎症がつづくために気管支が過敏になっているのです。

 そして、このような炎症の話に必ず登場するのが、「好酸球」という細胞です。

 「好酸球」といってもききなれないことばですが、血液のなかの白血球、そのなかの数パーセントを占めるのが「好酸球」で、以前は役割があまりはっきりわかっていませんでした。しかし、最近になってこの「好酸球」が、ぜんそくをはじめとするアレルギー疾患でおこっている炎症に深くかかわっていることがわかりはじめました。

 

 ぜんそくは「悪循環病」

 「気管支の過敏性」はたしかに親から受けついだ体質にもよるようですが、だからといってまったく変わらないものではありません。その後の環境や治療により、過敏性の度合いはよくもわるくもなります。

 「気管支の過敏性」を悪化させる最大の原因は、発作そのものです。そのほか、カゼなどの呼吸器の感染症、タバコの煙や大気汚染などの環境因子なども「気管支の過敏性」を悪化させる大きな原因です。

 反対に、「気管支の過敏性」を改善していくものは何でしょうか。もっともたいせつなのは、発作がないときに気管支の状態が自然によくなっていく自然治癒力です。そしてもうひとつ、くすりそのものがこの過敏性を改善させることに相当役に立っているといわれています。

 いま、「気管支の過敏性」を悪化させる最大の原因は、発作そのものだといいました。わかりやすくいうと、発作をおこすと気管支がさらに敏感になるということです。だとすれば、発作をおこした気管支は、以前よりもさらに発作をおこしやすくなっているはずですね。するとつぎの発作はすぐにおこる。さらに気管支が敏感になっていく、という具合に悪循環になることにお気づきでしょうか。

 ぜんそくの治療には、この悪循環を断ち切り、逆に「好循環」にしていくことが必要なのです。発作を極力減らし、発作がおこらないうちに、気管支の過敏性をどんどん改善させていくのがカギなのです。これが私たちが「積極的ゼロレペル作戦」とよんでいる治療法です。


 「気管支の過敏性」と「アレルギー反応」

 それでは、「気管支の過敏性」と「アレルギー反応」にはどういう関係があるのでしょうか。

 最近までは、小児ぜんそくの原因といえばアレルギー反応、というように単純に結びつけて理解されており、アレルギー反応がぜんそくの本質であるかのように誤解されていた感じがします。

 そうではありません。ぜんそく児の気管支は過敏なので、いろいろな刺激が発作の引き金になるわけですが、「アレルギー反応」もそのいろいろな刺激のうちのひとつなのです。しかし、とくに小児のぜんそくの場合、いろいろな刺激のなかでも「アレルギー反応」が大きな部分を占めるので、重要なのです。