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英語の達人は演繹法と帰納法を使い分ける

 

 演繹推理(ワラント→データ→結論=クレーム)、と帰納推理(データ→ワラント→結論=クレーム)の二刀流を使って、ということなのだ。コナン・ドイルの小説で使うdeduction (演繹法)も、原書をしっくり読んでいくと、武蔵の「兵法の目付」とあまりにもよく似ている。

 ある人が、右手首を切って死んでいる。

 look人間は、ハハーン、自殺だ、と短絡する。血だらけのカミソリが、確証(hard evidence)、つまり口語表現ではsmoking gun (発砲された拳銃)というわけだ。

 その人のsee力は弱い。手首を切るのは、最もてっとり早い自殺法だ、という常識の域を出ていない。しかし、プロの探偵は、プロ・ディペーターのように、seeに力を入れる。そのために、目をつむり、眉間にしわを寄せ、考える。ジャーロック・ホームズは、ブスッとして、何日も人目を避け考える。あの手首は右手だった。すると、死者は左利きでなくてはならない。ところが、調べによると右利きであった。とすれば、他殺ではないか。

 ここまでは、目を閉じた方がよくわかる。ディベートでいう論拠(ワラント)の部分だからだ。そこで、古畑任三郎ジャーロック・ホームズは、動機を調べようとする。

 そこで調査が始まる。証拠探しだ。憶測では私見になる。

 英語の使い手は、l think ~.とl feel ~.という曖昧な表現を避ける。相手からのWhy?という質問で簡単にこわされることを知りつくしているからだ。彼らはEvidence proves~.とかResearch proves~.という客観性を大切にする。しかし、これらは目でlookできる証拠に過ぎず、目をつぶってもseeできる。ロジックに支えられたものでなければ(右手首は右手では切れない、というのも一つのロジック)、正しい推断(クレーム)は得られない。

 正しい推断(推理による判断)とは、seeによる新しい価値の発見だからnew see (新観)ともいえる。

 このnew see をディペートでいうクレーム(認めさせたい結論)とすれば、その頂点を支える二本の柱は、左のlookと右のseeである。

 武蔵は、look(見)とsee (観)を見事に分けている。そしてどちらも大切だといいながら、lookを遠くみて、物事の根っ子の部分を観よ(see)という。しかし、肉眼で見えない根っこの部分だけで考えれば、これも思い込みが強過ぎて、現実から離れることがある。だから、遠く(根)を離れて、幹、葉、花などの見えるものを近くに見よ(look)という。

『英語は格闘技』 松本道弘