医薬翻訳サービス

薬理学、生化学、統計学に精通した翻訳士が対応いたします

乳酸菌製剤で膀胱ガンの再発が25%も低下した

 

 患者さんの「クオリティ・オブ・ライフ」を重視した治療法が次々に開発されています。なかでも、表在性膀胱ガンに対する経尿道的切除術は、膀胱を温存するとともに、おなかを切らずにガンを切除できる点で患者さんの肉体的心理的負担を非常に軽くした方法ということができます。

 しかし、再発を抑えるために補助療法として行われるBCGなどの膀胱内注入療法は、6~8週にわたる通院、患者さんが耐えねばならない膀胱刺激症状などの副作用
に比して、。必ずしも十分満足のいく再発予防効果が得られていないのが現状です。乳酸菌製剤「BLP」は飲み薬で、毎週通院する負担もなく、副作用のない薬ですから、もしBLPの内服でBCGなどの膀胱内注入と同等以上の再発予防効果が得られれば、「クオリティ・オブ・ライフ」を重視した経尿道的切除術の意義をさらに高めるものとなるでしょう。

 そこで、東京大学医学部附属病院など全国30力所の病院の泌尿器科医が「BLP研究会」なるグループをつくり、表在性膀胱ガンに対するBLPの再発予防効果をみる臨床試験を行いました。BLPはなによりも整腸薬としての使用実績で副作用のないことがわかっており、プロローグで紹介した浅野美智雄先生らの行った動物実験をはじめ一定の効果を期待できるだけのデータもそろっていましたが、さらに段階を踏んで少人数を対象としたパイロットースタディー(初期臨床試験)の結果を踏まえて、この試験に臨みました。

 経尿道的切除でガンをとった患者さんを対象に試験を行いましたが、患者さんにはこの手術の時点で再発ガンの人もいますし、できたガンが単発(I個)の人もいれば多発(2個以上)の人もいます。初発か再発か、単発か多発かによって、手術後の再発のしやすさが違っていますので、まず患者さんを初発多発(A群)・再発単発(B群)・再発多発(C群)とに分け、それぞれの群の半数の患者さんにBLPが投与されるよう工夫して試験を行いました。初発単発の患者さんはもともと非常に予後(経過)がよく、手術後の再発予防の治療は必要ありませんので、今回の研究対象からは除きました。このようにして、A~C群の125名を対象に選びました。

 新薬の臨床試験でよく用いられるのが二重盲検法です。「新しい薬を試してみましょう」と患者さんにご説明すると、その期待感だけで病状が一定期間、好転する可能性がありますので、薬理効果を客観的に評価するには新薬と外見上まったく見分けのつかないビタミン剤などの偽薬を用意して、患者さんを2グループに分け、一方には新薬を、他方には偽薬を、担当の医師にも新薬か偽薬かを知らせないまま投与し、2グループ間の効果を比較する方法がとられています。

 この二重盲検法により、125名の患者さんのうち61名にはBLPを毎日3回(1回1g)、あとの64名には偽薬を手術後に服用してもらいました。そして、再発してくるガンを定期的に行う膀胱鏡検査で的確にとらえながら、1年後に非再発率を比較したのです。

 結果は、手術時点でのガンが再発多発(C群)の患者さん47名については、BLPを投与しても再発が多くみられ、偽薬との間に差がありませんでした。しかし、再発単発と初発多発(A群十B群)の78名については、BLPを投与した39名と偽薬の39名の間で非再発率に明らかな差が出たのです。1年後の非再発率はBLPを服用した場合は79・2%(再発率20・8%)、偽薬では54・9%(再発率45%)となり、BLPの服用で非再発率が約25%も高まることがわかったのです。

 同時に、再発を抑えることができなかった患者さんについて、手術で切除したガンの悪性度が投与前にくらべ、どのように変化しているかを調べました。

 BLP投与前の悪性度がG2たった患者さんは99一名いましたが、投与後の再発ガンではこのうち10名がG1に低下し、G3に進展した人は1名もいませんでした。偽薬のほうは投与前にG2だった患者さん17名のうち2名がG1に低下する一方、G3に進展した人も2名いました。

 また、投与前の悪性度がG1だった患者さんをみると、悪性度の進展がみられたのはBLPでは9名中1名だけでしたが、偽薬のほうは14名中5名がG2に進展していたのです。

 これらをまとめると、BLPを服用したGI~G2の患者さん31名のうち再発ガンの悪性度が低下した人は10名、進展した人は1名でした。他方、偽薬を服用した患者さん31名のうち悪性度の低下した人は2名、進展した人は7名に上りました。

 31名と31名のグループの比較ではデータが少ないため、患者さんの生活習慣などにばらつきがあり、ひょっとするとBLP以外の要因が有利に働いている可能性もないとはいえません。しかし、この結果を統計学的に分析すると「P<0.001」と判定されました。Pはデータが誤りである危険率で、O・1%以下の危険率でBLPと偽薬の間に有意差、統計学的に明らかな差が認められたということです。

 これは、表在性膀胱ガン(G1~G2)の患者さんから任意の62名を選び出して2グループに分け、一方にはBLPを、他方には偽薬を投与する同様の臨床試験を1000回繰り返したとしても999回まではBLPが悪性度の進展を抑える結果が出るだろうということです。BLPの効果は明らかでした。

 このように125名の患者さんの臨床試験を通じて、乳酸菌製剤が再発単発または初発多発の表在性膀胱ガンに対して1年後の非再発率で約80%と高い再発予防効果を示し、また再発が起こった場合にも悪性度の進展を抑え込むことが証明されました。再発多発に対しては効きめがないなど、乳酸菌製剤の効果は悪性度の比較的低い表在ガンに限られ、神様が救えなかったようなガンまで救えるものではけっしてありませんが、経尿道的切除術を受けた患者さんにとっては朗報となるでしょう。

 内視鏡を使ってガンを診察したり治療することのできる臓器は、膀胱のほかに胃、大腸、肺などがありますが、胃ガンや肺ガンは浸潤性のものが比較的多く、内視鏡的切除だけで治療するのは困難です。大腸ガンは内視鏡的切除の可能な表在性のものが多い点で膀胱ガンと共通しており、現在、BLPによる予防効果をみる臨床試験が同様に進められ、期待が持たれているところです。