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職業性膀胱ガンについて

 


動物実験発ガン性が証明されている化学物質のなかで、疫学的調査などから人間に対しても発ガン性ありと断定できるものは案外少なく、WHOの国際がん研究機関の評価によれば、50種類にすぎません。

 このなかで、人間に膀胱ガンをつくることがはっきりしている化学物質として、染料やゴム製品に使用された2-ナフチルアミン、ベンチジン、4-アミノビフェニールなど数種類の「芳香族アミン」と呼ばれる物質があげられます。染料には天然染料と合成染料がありますが、合成染料のほとんどを占めるのがコールタールから得るアソ染料で、アソ染料の製造工程でつくられたり不純物としてまざっていたのがこれらの芳香族アミンでした。

 第一次大戦前のドイツでは全世界の合成染料の約8割が生産されていましたが、そのドイツで染料工場の工員3名が膀胱ガンになったことから、主治医であったレーン博士は染料の原料を作業中に吸い込み、尿中に排泄されたのが原因であろうと推論しました。博士の予想はその後、原料であった2-ナフチルアミンの発ガン性動物実験で証明され、裏づけられました。

 わが国には、伝統的な京染物の一つに花鳥、草木、山水などを色彩豊かに染め出す友禅染があります。京都大学医学部泌尿器科の吉田修教授らは、ある膀胱ガンの患者さんが模様を筆やハケで手描きする本友禅の職人で、染料を含んだ筆先を口で吸って量を調節する習慣があったことにヒントを得て、絵の具のアソ染料が体内で分解されて原料のベンチジンが遊離し、膀胱に発ガン作用を及ぼすことを証明しました。アソ染料との接触が膀胱ガンのリスクを高める職業はこのように染料製造業だけでなく、染色業、さらには織物業、仕立て業にまで及んだとされています。

 現在ではベンチジンなどこれらの芳香族アミンの製造、使用が規制され、「職業性膀胱ガン」の危険は回避されています。生活環境中にひそむ発ガン物質を検出、除去することによってガンが減った、これはそのいい例でしょう。

 しかし、日常、膀胱ガンの患者さんに接していますと、原因物質を特定することができない場合がほとんどです。1種類の高濃度の発ガン物質にさらされた結果できる職業性膀胱ガンと異なり、一般の膀胱ガンは多種類の低濃度の発ガン物質がいくつも積み重なったり、あるいはその相乗効果によってできるものと考えられます。