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100個のリンパ球が束になって1個のガン細胞をやっつける

 

 

 全身の骨の内部は骨髄と呼ばれるトロトロした赤い液体で満たされ、骨髄に含まれる1種類の幹細胞が分化して血液中の細胞がつくられます。血液細胞は赤血球、白血球、血小板に分かれますが、このうち白血球の多くが免疫細胞として働くのです。

 白血球は、細胞内に化学物質の顆粒を持っている顆粒球と、顆粒を持たない単球、リンパ球に大別されます。

 顆粒球には、好中球、好酸球、好塩基球の3種類があります。

 好中球は白血球のなかで最も数が多く、約60%を占める細胞で、細菌などの異物の侵入に気づくと真っ先に駆けつけ、相手かまわず細胞内にとり込んで酵素で分解する働き(食作用)があります。一定量を食べ終えると、約8日の寿命で次々に死んでいきますが、傷口にでる膿は主に、戦いを終えた好中球と細菌の死骸なのです。

 しかし、相手もよく見定めずにやみくもに突進する歩兵部隊のような好中球の攻撃では、ガン細胞のような強敵には太刀打ちできません。そこで、単球やリンパ球の出番となります。

 単球は白血球のなかで最も大きな細胞で、血液中から出てリンパ節などの組織に移行すると、不定形のマクロファージに姿を変えます。このマクロファージも異物を食べる細胞ですが、その捕食力は好中球の10倍以上といわれ、相手がガン細胞だろうと鉄の粉だろうととらえて食べてしまいます。

 マクロファージは強い味方ですが、槍を持った騎兵のようなもので、うまく敵とはち合わせしなければ、これも戦になりません。ガン細胞だけを標的と見定めて特異的に攻撃するわけではないので、その働きは非特異的免疫反応と呼ばれます。また生まれつき体に自然に備わっているので、マクロファージによる免疫を「自然免疫」とも呼んでいます。

 これに対して、ガン細胞などの標的を認識して正確にねらいを定め、攻撃を仕掛ける免疫細胞もあり、その働きを特異的免疫反応と呼んでいます。このタイプの免疫細胞が働き始めるには、一度、戦を経験して敵の顔を記憶することが必要で、記憶すれば同じ顔の敵と繰り返し戦うことから「獲得免疫」とも呼ばれます。獲得免疫の担当細胞がリンパ球です。

 リンパ球は白血球の約30%を占めている細胞で、B細胞、T細胞、NK細胞に分かれます。

 NK細胞の働きはよくわかっていませんが、NKとはナチュラルーキラーの頭文字をとったもので”生まれながらの殺し屋”という物騒な名前がついています。この細胞はいわば自然免疫と獲得免疫の中間的な存在で、腸管粘膜のような細胞増殖の盛んな場所に待機していて、ガン細胞であればどんな顔をしたのでも、みつけるや寄ってたかって殺していると考えられています。

 できたばかりの小さなガンの芽なら、マクロファージとNK細胞だけでも手に負えるのですが、その監視の目をかいくぐってガンが活発に増殖を始めると、最後の手段であるB細胞とT細胞による獲得免疫が開始されます。

 B細胞は、抗体という飛び道具を使う細胞です。弾丸(抗体)を撃ち込まれた標的(抗原)は無力化して容易に破壊されます。しかも、B細胞はどの弾丸が敵に効いたかを記憶していて、同じ型の弾丸を大量につくってリンパ液のなかに放出し、集中攻撃を浴びせるのです。

 T細胞は骨髄で生まれた後、心臓の上部にある胸腺という小さな器官に送られて、自己(体を構成する細胞)と非自己(異物、抗原)を見分けるスパルタ教育を受け、キラー(殺し屋)T細胞、ヘルパー(助っ人)T細胞、サプレッサー(抑え役)T細胞など、それぞれ働きの異なる細胞に分化します。

 キラーT細胞は、ウイルスのもぐり込んだ細胞やガン細胞など、特定の抗原を持った標的に直接、体当たりする重戦車です。ヘルパーT細胞は、B細胞やキラーT細胞に敵の顔を教え、出動を要請します。サプレッサーT細胞は、ヘルパーT細胞と反対に、免疫反応が過剰になりすぎて自己まで痛めつけることがないよう抑えている調整役です。

 私たちの体内には常時、数にして1兆~2兆個、重さにして約1㎏ものリンパ球が存在していますが、ガン細胞は強敵で、リンパ球が100個ぐらい束になってかかってやっと1個のガン細胞を排除できるといわれます。

 ガン細胞を認識して特異的に攻撃を仕掛けるリンパ球の才能を引き出し、ばらばらでは十分に力を発揮できないリンパ球の連係プレーを支えているのが、マクロファージなのです。