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HIV感染症およびAIDS

 

 後天性免疫不全症候群(AIDS)とは、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)によって体の免疫抵抗力が荒廃することで生じる免疫不全症である八981年に米国ではじめてAIDS症例が報告されて以来、その患者数は全世界で急増している。当時の厚生省の統計によると、1996年のAIDS患者・HIV感染者報告数は610名と過去最高を記録した。感染原因別でみると、異性間性交渉によるものが287名(47%)と最多であった。妊娠可能年齢の女性の感染者数の増加は、当然のことながら母子感染による小児のHIV感染者の増加につながる。

 HIVは血液中のCD4リンパ球(免疫機能を指揮する細胞)に侵入する。自身がもつ逆転写酵素によってウイルスDNAを合成し、それをリンパ球のDNA遺伝子に組み込む。ある一定期間を経てHIVはRNAウイルスに戻り、感染リンパ球を破壊して血中に出るとともに、他のCD4リンパ球に感染する。この周期を繰り返すことにより、さらにはアポトーシスの誘導によって、 CD4リンパ球は破壊しつくされる。結果として重篤な免疫不全状態がもたらされ、日和見感染などを合併してAIDSにいたる。また、 HIVは単球系の細胞にも感染する。HIVに感染した単球/マクロファージが脳血液関門を通過して脳に侵入し、クリア細胞となって感染が成立すると、 AIDS脳症が引き起こされる。

1……診断

 HIV抗体スクリーニング検査がまず行われ、これが陽性の場合、より精度の高い確認検査(ウェスタン・プロット法)力l施行される。 HIVの感染母体からの出生児の場合は生後15ヶ月ごろまで母体からの移行抗体が残存するので、 HIV抗体検査は感染の有無にかかわらず陽性である。早期診断には児の血液からのHIV抗原の証明が適切で、 HIVの分離、 PCR法やp24抗原の検索などが施行される(PCR法がもっとも有効である)。

 ところで、医療者は、 AIDS発症までHIV感染に気づかない患者が多く存在すること、母親がHIV感染を知らずに出産する例があることに注意する必要がある。発育不全、口腔内カンジダ症、リンパ様間質性肺炎、慢性下痢、慢性湿疹様発疹、びまん性リンパ節腫脹、耳下腺腫脹、肝脾腫、不明熱、反復性感染症日和見感染症(カリニ肺炎など)、菌・敗血症、脳症(発達遅延、麻痺、人格変化、行動異常など)、心筋症などは、 HIV感染症・AIDSを
疑うきっかけとなる症候である。

2……治療

 現在、ヌクレオシド系の逆転写酵素阻害剤(AZT、 ddlなど)が抗AIDS雌、 AIDS発症予防薬として用いられている。 CD4リンパ球数やPCRによるウイルス量を目安として、または、 AIDS関連症候の出現に応じて投薬を開始する。

 ただし、6ヶ月以上投与すると耐性ウイルスが出現してくる。より多方面の阻害剤が今後開発・認可され、これらとの併用により治療効果が向上することが期待される。


わが国の実地医療がHIV感染者の診療を避けて通れない時代がすでにきていること、医療者が何の予告もなくHIVを含む検体を取り扱う可能性があることを認識し、平素よりHIV感染およびAIDSについての正しい知識をもち、感染者に対して適切な対応と処置がとれる心の準備と技術を備えておく必要がある。HIVの感染力は非常に弱いので、B型肝炎ウイルスに準じた感染防止対策で充分である。