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『急性胃腸炎』の徹底解説

腹痛、嘔吐、下痢を主症状とする疾患で、比較的安易につけられる診断名である。原因は、ほとんどの場合感染症であるが、薬剤性のこともある。ここでは急性胃(十二指腸)炎、急性腸炎、および昨今大きくクローズアップされるようになった腸管出血性大腸菌感染症について述べる。


急性胃(十二指腸)炎

 胃粘膜の浮腫・発赤・がらんなどをきたす疾患で、急激な上腹部痛や嘔吐、時には吐血で発症する。最近では急性胃粘膜病変(AGML)と呼ばれることもある。感染症としては種々のウイルスによるものが多いが、小児でもヘリコバクター・ピロリ感染を念頭に入れる必要かおる。また、ステロイドや非ステロイド系解熱鎮痛剤なども原因となる.


急性腸炎

 周期的に繰り返す下腹部痛や泥状・水様下痢便(ウイルス性)、粘血便(細菌性)が主症状である。原因は、小児科領域ではほとんどが感染症である。ウイルス感染としては、冬から春にかけて流行するロタウイルスが代表的であり、アデノウイルスや他の腸管感染ウイルスもある。細菌感染としては、サルモネラカンピロバクター、病原性大腸菌が多い。また、サルモネラ感染・エルシニア感染では腸炎だけでなく、急性腎不全や川崎病様の症状をきたすこともある.


腸管出血性大腸菌感染症

 1996 (平成8)年夏の集団発生で有名になったが、80年代から散発例は認められていた。基本的には病原性大腸菌感染による急性腸炎であるが、問題となるのは、溶血性尿毒症症候群(HUS)および神経症状で, 0-157をはじめとする一部の菌型が産生するベロ毒素(VT)によると考えられる。VTはVT-1, VT-2の2型に分けられ、vTを産生する大腸菌をべ口毒素産生性大腸菌(vTEc)と呼ばれる. VTECとしては0-157があまりにも有名であるが,実際には,0-26, -111, -128, 145, 165など多種の型が知られている。

 臨床症状としては、初期の感冒様症状に続いて水様性下痢となり、2~6病日から血便となる。血便は鮮血であることが多く、激しい腹痛とともに頻回となり、血液のみの便となることが多い。頻回の下痢のために直腸脱をきノこすこともある. HUSや神経症状が出現するとすれば3~10病日ごろからのことが多い。

 

 

診断と治療


急性胃(十二指腸)炎

 急性胃炎の診断は臨床症状から下されることが多いが, AGMLの診断には内視鏡検査が必要で、病初期に施行する必要かおる。ヘリコバクター・ピロリの存在は、生検だけでなく血清学的にも診断可能となっている。治療は対卮療法主体であるが, AGMLに対しては, h2-ブロッカーの投与、原因薬剤の中止などが必要となる.


急性腸炎

 ウイルス性腸炎の診断は、便性を含む臨床症状、流行、便培養陰性などからなされる。ロタウイルスアデノウイルスなどでは、便中のウイルス抗原を検査する方法(ラテックス凝集法, ELISA法など)があり、早期診断に有川である。脱水、低血糖電解質異常に対する輸液療法が治療の主体である。ニ次性の乳糖不耐症にも注意を要する。

 細菌性腸炎の診断には便培養が必須である。カンピロバククーの培養は特殊な条件が必要であるが、最近はルチーンに行われるようになっている。ウイルス性腸炎との鑑別は、粘血便、炎症反応などから比較的容易である。輸液・抗生剤治療が主体となる。


腸管出血性大腸菌感染症

 腸管出血性大腸菌感染症の診断も基本は便培養であるが、非常に少ない量で症状が出るため、またすでに抗生剤を投与されているヶ-スが多いため、培養陰性のことも多い。血清中の大腸菌LPS抗体を、国立小児病院に検査依頼して血清診断することもできる。便中のVTをPCR法で検索する方法もある。抗生剤と乳酸菌製剤の投与が治療の原則である. HUS発症例に対して、カンマグロブリン大量療法、血漿交換なども試みられているが、もっとも問題となる神経症状に対する効果はまだ定かではない。

 

病歴聴取のポイント


発病時期、嘔吐の回数と性状、下痢の回数と性状(色:白色便、黄色便、緑色便、赤色便など。臭い:酸性臭・腐敗臭など、粘液や血液の混入の有無。固さ:水様便・軟便など、消化不良便か)。脱水の有無の確認のために、経口摂取の状況把握(水分はどの程度とれているか?)、排尿回数と尿量の推測、口腔内の乾燥程度の確認など。最近の体重の確認(入院時の体重と比較することにより、脱水の程度や栄養不足の程度が推測できる).他の随伴する症状の確認(発熱、咳、頭痛、意識状態など).同じ症状を訴えるものが、他の家族や保育園・幼稚園・学校などの集団生活の場にいないかを確認する。感染経路を見つけるのに役立つことがある.


観察のポイント
入院となる場合は、嘔吐・下痢が激しく、水分の経口摂取が困難な児である。そのために、輸液による治療が行われる。児は脱水や低血糖の危険性があるし、輸液管理上の問題で電解質異常が起こることもある。これらの徴候の観察が大切である.

 ①体重の増減の確認:毎日体重測定をしたほうがよい。
 ②水分の出納の確認:輸液量、尿量、飲水量の測定が重要である.
 ③低血糖電解質異常の症状の確認:全身倦怠感、冷汗、けいれんなど。り吐物や便は、できるだけ医師に見てもらうようにする。「百聞は一見にしかず」である。病状把握のためには、吐物や便の確認は必須である。

院内感染に注意する。一処置一手洗いの原則を守る。特に、患児の糞便・吐物とそれらに汚染されたものの処理には注意する。このことを、医療従事者のみならず、付き添いの保護者にも徹底する。

頻回の下痢があったりすると、外陰部や臀部がかぶれて湿疹ができたりする。清潔が保てるように工夫してあげる。

 


その他のポイント

感染経路が特定できない段階で安易に疑わしい食材に言及したり、食中毒という病名を使うと家族やその周囲のものを混乱に陥れる。慎重に対応すること.

腸管出血性大腸菌感染症(VTEC感染症)の場合, HUSや神経症状の合併症はせいぜい5%弱である. 1996 (平成8)年の堺市での流行では、これらの合併症の頻度は非常に低かった。いたずらに家族を不安に陥れないように注意しなければならない。