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甲状腺機能低下症および亢進症の治療と診断

 

 診断は、患児の症状と診察所見、甲状腺ホルモン(遊離T3、遊離T4)とTSHの血液中濃度測定、甲状腺関連自己抗体の測定、超音波による甲状腺の評価、成長曲線の作成などにより可能である。


甲状腺機能低下症

 甲状腺ホルモンが低値でTsHが高値ならば、甲状腺の異常による原発甲状腺機能低下症である。そして、甲状腺関連自己抗体が陽性ならば、慢性甲状腺炎(橋本病)と診断できる。甲状腺ホルモンが低値でTsHが低値~正常の範囲にあれば、中枢性甲状腺機能低下症か、低栄養や神経性食欲不振症でみられるEuthyroid sick症候群である。 TRH負荷試験により、下垂体性機能低下症(TsHが無反応や低反応)と視床下部甲状腺機能低下症(TsHが遅延型・遷延型の反応)の区別ができる。さらに、甲状腺超音波検査、頭部MRI (核磁気共鳴画像法)検査、甲状腺シンチグラムなどの画像診断が必要な場合も多い。治療は、甲状腺ホルモン補充療法をT4製剤(チラーヂンS)で行う。もしも、治療すべき基礎疾患があれば、それに対する治療も行う。 Euthyroid sick症候群では、甲状腺ホルモン補充療法は必要ない。また、緊急な状態(甲状腺腫による気道の圧迫が強い時など)では、速効性のT3製剤による治療を行う。

 注意すべきは、新生児~乳児期の甲状腺機能低下症である。知能への悪影響を考えるならば、検査のために治療開始時期を遅らせるのは賢明ではない。治療を優先し、精密検査は3~4歳以降にすべきである。


甲状腺機能亢進症

 甲状腺機能亢進症では、甲状腺ホルモン高値でTsHは感度以下の低値である。甲状腺関連自己抗体が陽性ならばバセドウ病である。甲状腺超音波検査も有用である。治療は、抗甲状腺剤(メルカソール、プロパジール)による内服剤治療が第一選択である。他に、外科的な甲状腺亜全摘術、放射性ヨードによる治療があるが、これらは治療後に甲状腺機能低下症にな
る。なお、放射性ヨードによる治療は、小児と妊娠・授乳中の女性には行ってはならない。また、状態に応じて、β受容体遮断剤(βブロッカー)や抗不安剤を併用することもある。緊急な状態(甲状腺クリーゼ:急激な発症で急速に悪化し、高熱・頻脈・不穏状態から昏睡状態となる致死的な病態)では、速効注の無機ヨード剤が使用されるが、その効果は一過性である。

 また、プランマー病では、甲状腺内にホルモンを過剰に産生する結節ができる。外科的にその結節を除去する治療が行われる。

 

病歴聴取のポイント

O患児の症状がいつから出現したか。

O家族歴の聴取。

観察のポイント

1〕甲状腺機能低下症の場合

 一般状態とバイタルサインの確認。

 甲状腺腫が巨大である場合は、気道の閉塞症状に注意する。

 甲状腺ホルモン剤による治療が開始になった場合は、服薬の確認をする。同時に、過量投与になっていないか、甲状腺機能亢進症状(多汗・興奮・頻脈など)にも注意する。


2)甲状腺機能亢進症の場合

 小児では起こりにくいが、甲状腺クリーゼに注意する。一般状態とバイタルサインの確認である。

 抜歯・外傷・手術・感染症などのストレスが加わった時に、甲状腺機能亢進の症状が急速に悪化して甲状腺クリーゼになる場合がある。その予防のためにも、安静が重要である。

 機能亢進状態では、頻脈で僧帽弁逸脱などによる心雑音も聴取する。基礎疾患として心臓に異常があれば、容易に心不全に移行する。安静が重要である。心疾患のある児では、担当医とよく相談の上で観察する。 

 抗甲状腺剤内服中は、その副作用の発現に注意する。皮疹、白血球減少、無顆粒球症、肝障害、まれにSLE様(全身性エリテマトーデス様)症候群をきたす。無顆粒球症は易感染状態であるので、厳重な清潔隔離、抗生剤などの投与が必要となる。副作用の出現は内服開始後3ヶ月以内がほとんどである。副作用が出れば、ただちに抗甲状腺剤は中止し、別の治療方法を選択することになる。

3)自己免疫性甲状腺疾患の母親から生まれた新生児の場合

 特にバセドウ病の時には注意する。新生児バセドウ病の多くは、出生後3日以降に発病する。母親が抗甲状腺剤を内服していれば、生後7~10日頃に発病する例もある。従って、新生児バセドウ病のリスクがある時は、出生後2週間まで入院させ観察するのがよい。担当医と相談しながら、児の観察を丁寧に行い、早期発見に努める。頻脈、易刺激性、多汗、発熱、体重増加不良、眼球突出、多呼吸、甲状腺腫などの症状に注意する。診断が遅れると、不整脈心不全で死亡することがある。

指導のポイント(担当医とともに行う)

 適切な治療を受ければ、普通の人生が遅れる。このことを、担当医とともに家族・本人に伝えて、精神的苦痛を軽減させる。

 女児の場合は、将来の妊娠・出産も問題ない。しかし、産婦人科医と(必要ならば)甲状腺疾患にくわしい医師に相談して、妊娠・出産するように指導する。

 自己免疫性甲状腺疾患の妊婦の場合、甲状腺関連自己抗体が胎盤を通過して、児の甲状腺機能に影響を与える場合がある。したがって、出生後から生後1か月までの新生児は甲状腺疾患にくわしい小児科医師(できれば小児内分泌代謝専門医)の管理をうけることが望ましい。

 (甲状腺機能低下症で行う)甲状腺ホルモン補充療法は足りなくなった甲状腺ホルモンを補うだけで、特殊な薬剤を使う治療ではない。従って、食事から栄養補給することと同じである。ただし、甲状腺ホルモンの補充量は、(食事も不足すれば栄養失調、食べ過ぎれば肥満・糖尿病などの健康障害になるように)年齢と体格にあわせた適切なものでなければならない。定期的な診察と検査を続けることが大切であることを指導する。


 欧米人に比べると、日本人はヨードの摂取量が多いようである。しかし、平均的な日本人の食事内容では甲状腺機能への影響は心配ない。特別な食事制限をする必要はない。ただし、甲状腺シンチグラムを123 Jで行う時のみ、ヨード制限食(海草など)力1必要である。

その他のポイント

 成長曲線の作成は発病時期を推測するのに役立つ。家族に依頼して、母子手帳、保育園・幼稚園・学校などの成長の記録を集める。担当医と協力して、成長曲線の作成をする。