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日本語と同類の語順の言語

 

 日本語の語順はとにかく一つの法則によって一貫している。したがって日本語と同じような語順をもつ言語は、世界の言語の中にも数が多い。東洋では朝鮮語満州族の言語、現代モンゴル語アイヌ語がそうである。

 モンゴル語トルコ語等のアルタイ諸語も日本語に似ているが、たった一つ、名詞にかかる人称を表わす連体詞が名詞よりあとにくるという小さな点で、ちょっとちがう。ビルマ語・チベット語も日本語に似ているが、名詞につく連体修飾語が、原則として名詞のあとに来るところだけがちがう。しかし、これらの言語でも、動詞にかかる語は、全部動詞より前に来て、したがって文の最後に動詞が現われる点、日本語とよく似ている。ヨーロッパ語と同じ系統だと言われている言語でもイラン語、アルメニア語、インドのヒンディー語の語順は日本語と一致するという。

 ウラル諸語に属するハンガリー語は、今は他動詞を目的語の前に置くが、古くはアジアのウラル諸語なみに目的語が前にあったという。代表的なヨーロッパ語、ラテン語も、いろいろな語順を使いえたが、日本語と同様、動詞を最後にすえるのが標準的な形だった(同書)。とすると、日本語のことばの順序は、世界の言語の中で、ごく平凡な順序ということになる。

 一体、日本語といちばん語順のちがう言語はどの言語か。そもそも世界の言語には、どのような語順の類型があるのか。現代の英語はしばしば日本語と非常に対立し、たまたま漢文の語順が英語とよく似ているので、日本語と英語・中国語が対立している両極端かと思ってしまうが、ちがう。ヨーロッパのケルト語は動詞が先に来て、主語や目的語は、そのあとにぞろぞろ立つという。修飾する言葉は、修飾される名詞よりあとに来る。これなどが日本語と一番極端に対立するものだ。中国語は、名詞を修飾する語が名詞より前に来るから日本語に一歩近く、英語もそういうことが多いが、フランス語はあとにくることが多く、このケルト語に近い。東南アジアではタイ語・ヴェトナム語がそのようで、これも日本語とかなり語順のちがう言語の一つである。そのほかに、ビルマ語のようなのがあるから、世界の言語は語順から見て次の五類型になる。


1 日本語式   主語-目的語-他動詞の順 ただし、修飾語は名詞の前に。
2 ビルマ語式  主語-目的語-他動詞の順 ただし、修飾語は名詞より後に。
3 中国語式   主語-他動詞-目的語の順 ただし、修飾語は名詞より前に。
4 フランス語式 主語-他動詞-目的語の順 ただし、修飾語は名詞より後に。
5 ケルト語式  他動詞-主語i目的語の順 ただし、修飾語は名詞より後に。

     アメリカの言語学者グリーンパークは、このように分類したあとで、12の言語は、後置詞、つまり日本語の助詞をもっていて、前置詞がなく、345の言語は、前置詞をもっていて、後置詞をもたないという一般法則があることを発見した。

 これによると、12と345との間に大きなちがいがあり、2は1のうちで一歩3に近いもの、3は4よりも一歩1に近いものと言える。中国語や英語では自動詞の場合、主語より前に出ることがあり、34と5が近いことを証明している。中国語の「有山有河」「立春」「降雨」など、英語の"Here is a book.”もそれだし、“Is this yours”という疑問文もそれだ。

 なお、主語と目的語については、世界を通じて主語を先にするのが原則だということもグリーンパークは発見したが、松本克己の「日本語の類型論的位置づけ」によると、広い世界には七つだけ、南米とニューギェアには目的語の方を先にいう言語があるそうだ。
『日本語』 金田一春彦