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ネフローゼ症候群とは:プレドニソロン連日投与、補助剤としてジピリダモール

 

 基礎疾患が何であれ、糸球体の透過性が亢進して尿中に蛋白(主としてアルブミン)が失われ、低アルブミン血症(低蛋白血症)をきたした状態をいう。浮腫の成因は、低アルブミン血症による膠質浸透圧の低下が血管内水分の間質への移動・貯留を招くためと考えられている。一方、循環血液量が減少しているため代償性に血圧は高めとなり、尿量も減少する。この時期は循環不全に陥りやすい。また、IgGの減少や、 IgE・コレステロール・脂質結合蛋白の増加など、種々の蛋白の合成・異化・喪失に不均衡が起こり、免疫能の低下、凝固能亢進がみられる不安定な病態である。ウイルス感染をきっかけに発疱・再発することが多く、免疫学的な異常が想定されているが、原因は不明である。

 

ネフローゼ症候群の診断基準
      
1。尿蛋白:1日尿蛋白が0。1 g/kg/日以上、または早朝尿で300 mg/d/以上の蛋白尿か3~5日以上持続する。

2。血清アルブミン:学童・幼児3。0g/d/以下、乳児2。5 g/d /以下。

 

       小児例の大多数は、基礎疾患がなく(=特発性)腎組織にほとんど変化を認めない微小変化型である。副腎皮質ステロイド剤の治療によく反応することが多いが、過半数が再発を繰り返し、罹病期間が3~20年となる慢性の疾患であり、数%は20歳以降にも再発する。しかし、長期的には腎不全にいたる例は少なく、思春期を過ぎるころに自然治癒傾向がみられる。

 一部の症例では、副腎皮質ステロイド剤の治療に対する反応が悪く難治性である。こうした症例では副腎皮質ステロイド剤の使用期間も長くなり、他の薬剤を併用することになるので、もともとの不安定な病態に薬剤の副作用の心配が上乗せされることになる。また、血管性紫斑病やSLEの腎症状として、あるいはlgA腎症などの慢性腎炎でネフローゼ症候群になるもの、薬剤や腫瘍が原因となるものもある。

 患児のQOLを左右するのは、入院治療そのもの、副腎皮質ステロイド剤の長期使用による低身長、白内障、脊椎圧迫骨折、大腿骨骨頭壊死などである。長期的にみた死亡原因(0~7%)はおもに感染症によるもので、ほかに浮腫の強い時期に起こる血栓症、循環不全などがある。


1……診断

 眼瞼・外陰部の浮腫や、消化管の浮腫による食思不振・腹痛・下痢などを訴えて来院することが多い。表1の基準を満たした者は、ツ反が強陽性でないことを確認して副腎皮質ステロイド剤の治療を開始する。基礎疾患の検索として、血尿・補体低下・抗核抗体の有無などを調べる。


2……治療

 特発性のネフローゼ症候群の初発例は、プレドニソロン1.5~2 mg/kg(40~60mg/m2)の連日投与により、多くの場合、1~2週間で尿蛋白が消失し(寛解=早朝尿の蛋白が士~-が3日間持続)、低蛋白血症、高脂血症の改善が始まる。大多数が寛解を得るので、最初から腎生検を行うことはまれである。したがってネフローゼ症候群の分類は、副腎皮質ステロイド剤の治療に対する反応の仕方によって、臨床区分を用いるのが一般的である。

 初発例で副腎皮質ステロイド剤の治療に効果があれば(ステロイド感受性)、4週間のプレドニソロン連日投与を行い、隔日投与にして減量・中止する。浮腫の強い症例(胸水や腹水の貯留)では、アルブミンと利尿剤の投与や透析が必要な症例もある。副腎皮質ステロイド剤の投与を開始して1~2週間しても効果が乏しい症例は、消化管浮腫のために経口投与では吸収されにくいものと考え、静注に切り換えることがある。3~4週間の治療でも効果がなければ難治性である可能性が高いので、副腎皮質ステロイド剤のパルス療法、免疫抑制剤(シクロホスファミド、シクロスポリンなど)の併用、血漿交換などを行う。

 寛解を得た後に、早朝尿で蛋白2十以上が3日間以上持続した場合には、再発としてプレドニソロン連日投与を開始し、再び寛解か得られれば、早めに隔日投与にする。浮腫をきたしていない年長児は外来治療を原則とする。

 頻回再発型やステロイド依存性の症例には、その程度と使用薬剤の副作用との兼ね合いを考えながら、副腎皮質ステロイド剤少量長期投与やほかの免疫抑制剤を併用する。

 補助薬剤として、血栓症予防に抗血小板剤(ジピリダモール)、消化性潰瘍予防に制酸剤などを用いる。

ネフローゼ症候群の臨床区分

I ステロイド感受性

 1 非頻回再発型

 2 頻回再発型
  (6ヶ月に2回以上、あるいは1年に4回以上の再発がみられるもの)

 3 ステロイド依存性
  (プレドニゾロン減量中や中止後まもな<再発するもの)

II ステロイド抵抗性
  (4~8週間のプレドニゾロン投与でも寛解か得られないもの。難治性。)

       

○水痘の既往・予防接種(免疫抑制状態で罹患すると劇症化する危険がある)。

○最近1~2ヶ月以内の感染症の有無。

O病巣感染(扁桃炎、副鼻腔炎、歯周囲炎、痼疸)の有無。

○家族歴に腎疾患、自己免疫疾患、結核はないか。家族の水痘の既往。浮腫の強い時期の観察のポイント

○体重(5%までの体重増加は浮腫として認めにくい)、尿量、血圧(1日2~4回)。

○眼瞼、外陰部、脛骨前面、足背の浮腫の有無と程度。

O腹水貯留、腹部膨満の有無と程度(臍部腹囲と最大腹囲の測定)。

O食思不振、腹痛、下痢などの消化管浮腫の症状。

O多呼吸、呼吸困難、頻脈などの胸水貯留、心不全の症状。

O突然の強い腹痛、胸痛、頭痛などの血栓症の症状。

O浮腫の強い時期は、血管内容量不足による循環不全、凝固能の亢進による血栓症(腹腔内、胸腔内、頭蓋内)、免疫能低下にともなう腹膜炎・敗血症に留意する。

 この間は、浮腫の程度・尿量・血圧をみながら塩分と水分の制限を行うが、循環血液量が少ない時期でもあるので、過度の水分制限はこれを助長する可能性がある。副腎皮質ステロイド剤のパルス療法を行う場合は、時期的にもともとの凝固能亢進状態が副腎皮質ステロイド剤の大量投与により助長される可能性があるので、不整脈血栓症・高血圧・頭痛・熱感・紅潮などに注意する。

その後の入院治療中の観察のポイント

 免疫能の低下や皮膚の脆弱性が増した状態では、皮膚の清潔を保つことが重要となる。浮腫が消退し、血液所見が改善すれば過度の安静は不要である。長期入院そのものの児への悪影響を評価し、対応する視点も重要である。