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医薬品の流通について

(1)メーカーと卸

 一般的な物品は「メーカー→卸→小売り」を経て消費者に届けられる。医薬品も原則的には「メーカー→卸→医療機関・薬局→患者」というルートをたどるが、卸を省略したメーカー直販ルートもある。メーカー直販は他の商品でも見られるが、医薬品の場合は特に多いと推測される。

 メーカー直販では、MRと称される営業社員が医療機関、薬局を巡回して販売促進活動を展開している。MRは医療情報を提供するだけで価格交渉はしないというのが業界の建前であるが、価格交渉をしない営業は考えがたい。MRの数が多く、これが高薬価を導いているという指摘がある。

 卸事業者が仲介するルートでは、卸事業者の営業社員であるMSが医療機関、薬局を巡回して販売促進に当る。MSはMRと異なり価格交渉を行うのが任務である。卸事業者には大は全国規模のものから小は地方都市規模まで様々である。

 家電製品は小売店に至るまでメーカーによる系列が形成されていて外部からも分かりやすい。ところが、医薬品では系列がほとんど形成されておらず、メーカーと卸の関係は複雑である。系列が形成されない理由は、メーカー数と商品数にある。すなわち、家電産業は寡占体制であるからメーカー中心のグループを形成しやすい条件にあり、さらに各メーカーがほぽ似たような種類の製品を生産しているので、小売店は系列メーカーの製品だけで消費者の需要に応えることができる。

 これに対して製薬メーカーは大小合わせて千数百社あるが、市場に影響力がありそうなのは新薬開発型の80社(日本製薬工業協会加盟)であり、さらに強い影響力を持つのは20社程度に限定される。家電業界の一桁と比べると20社もある医薬品業界では、数の上でメーカー中心のグループ形成が困難である。さらに上位20社といえどもすべての医薬品を生産しているわけではないので、かりにメーカー中心の系列が存在したとしても、医療機関・薬局から注文があれば他メーカーの製品を調達しなければならないことも生ずる。以上のようなことが、医薬品業界での系列形成を困難にしている。しかし、特定の卸とメーカーがとくに親密な関係にあるという話は耳にする。とくに親密なといっても排他的な友好関係ではなく、必要に応じて他のメーカーとも取り引さしているので、家電に見られる系列とは異なる。

 メーカー直販が増え、医薬品卸が苦境に立だされている。医療機関にとって医薬品卸は必須の存在であったが、今日ではそうではなくなりつつある。医薬品卸のMSに依存せずとも医薬品情報を入手できるようになったこと、医薬品の受発注をさまざまな通信方法で処理できるようになり、MSとの相対取引が不要になったこと、などが医薬品卸を苦境に立たせた理由である。また、卸経由よりメーカー直販の方が医薬品を安く入手でき、したがって薬価差益も大きいということも理由と考えられる。卸事業者も受発注処理の合理化・迅速化などに取り組んできたが結果は必ずしも思わしくはなく、企業合併など、医薬品卸業界の再編が進んでいる。


(2)仕切価と実勢価格

 製薬メーカーから卸事業者への引渡価格を「仕切価」といい、卸から病院・薬局への納入価格を「実勢価格」という。薬価基準の決定方法の理解に必要な用語だから記憶してほしい。

 薬価基準(保険適用医薬品の最終小売価格)は国が定めるので、仕切価は家電の「メーカー希望小売価格」とは異なり蔵出し価格である。しかし仕切価は薬価基準にもかなり影響するので、単純な蔵出し価格ではない。

 実勢価格は仕切価に一定の卸マージンを上乗せした価格であり、この価格分布を見て薬価基準が決定される。経済学は一物一価であると教えるが、それは理論展開に便利だからであって、実際には一物多価が普通である。

 実勢価格が一律ではない理由の1つは、大容量のものほど割安になることである。ミネラルウォーターで考えると分かりいいと思うが、中身1CC当たりの単価は同じでも、容器の製造コストが1!サイズでも500CCサイズでも大差ないから、容量の小さなペットボトルほど容器代を含めたICC当たり単価は割高になる。薬も同様で、大きな容器のものほど割安である。

 割安な大容量のものだけ製造すればいいかというと、そうでもない。一度開封した薬は空気と接触して品質が落ちる可能性がある。患者の少ない小規模病院や小規模薬局では大容量を期限内にさばけず廃棄処分されることが考えられる。あきらかに資源の無駄であり、小容量も必要なのである。

 理由の2は、大口の顧客に対する割引販売である。これは一般的な商習慣であり説明を要しない。第3力1「総価山買い」と称される取引形態である。総価山買いとは、複数の薬を一品ごとの値決めは行わずに全体の金額を決める取引である。総価山買いはドングリ勘定だから厳密な意味での流通価格は形成されない。

 第4は仮納入という商習慣である。これは価格を決めずとりあえず納品し、後日、価格交渉を行って決済する取引である。納入と価格交渉・精算に数ヶ月のラグかおるケースも珍しくはない。10か月も先になることもあり、決済が遅れるほど情勢が変化し納入時の相場から離れた値段になりやすい。

 かつては抱合せ販売とバックリベートという商法が存在したことも一物多価の理由に上げられた。抱合せ販売とは、ある医薬品(とくに新薬)の販売促進のために別の医薬品をおまけする方法である。パックリベートというメーカーが特定の医薬品を売り込むために卸にダンピングを奨励し、卸の損失分はメーカーが後日補填するという方法である。抱き合わせとバックリベートは公正取引委員会から独占禁止法に抵触するとの勧告があり、現在では姿を消している。