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製薬企業の利潤率

(1) 会計的利潤率と経済的利潤率

 昔から薬に関連しか商売は利幅が大きく「薬九層倍」といわれてきた。現在でも製薬産業の利潤率は高く、学生から就職先としての人気も高い。

 利潤率は固定したものではなく、総売上高に対する利潤率、自己資本利潤率、総資本利潤率など、その時々の目的に応じて算出されている。ただし、いずれの利潤率も会計帳簿から算出したものである(会計帳簿が持ち出されることはないから実際には有価証券報告書等の数字から算出)。以下、会計帳簿から算出した利潤率を「会計的利潤率」と称する。

 会計的利潤率は1年間の企業業績を評価するには有効であっても、長期的な評価には必ずしも適切とはいえない。たとえば、巨額の設備投資をすれば当期利潤率はマイナスになるが、数年先には莫大な収益をもたらすはずである。設備投資を中心に据えれば、かなり長期間を対象とした利潤率の観察が必要である。

 会計的利潤率は、機会費用を考慮していない点にも問題がある。たとえば再建のため社員の賃金カットを行っている企業の会計的利潤率は、その分だけ上昇する。しかし、経営状態を正確に把握するには、賃金の全額を支払ったと見なして利潤率を計算するのが正しい。

 会計的利潤率には会計諸帳簿に記載されない数値は反映しない。しかし「ブランド」などの無形資産は売り上げにかなり貢献している。無形資産を無視すると利潤率が過小あるいは過大になるので、これもカウントする必要がある。医薬品産業においてとくに重要な無形資産は、研究開発活動の成果である。

 新薬開発が成功すれば莫大な利潤が得られるので、研究開発活動をカウントすることに異議はないと思う。問題は失敗例だが、田中耕一さんが「もったいない」から失敗作を捨てずに研究を続けノーベル賞を受賞したのは極端な例としても、失敗例のすべてが無に帰するわけではなく、次回以降の活動に重要な示唆を与える。したがって、失敗事例も含めて研究開発活動から得られる無形資産を「知的資本」と定義し、経済的利潤率にカウントすることとした。

 なお、以下の数値は菅原琢磨氏(国際医療福祉大学)の研究成果によ

(2)国内他産業・海外製薬企業との比較

 1950年に薬価基準制度が創設されて以来、新薬などの例外を除いて、医薬品は改定のたびに基準価格が引き下げられてきた。言うまでもなく薬価基準が規制するのは最終小売価格であり、政府は仕切価や実勢価格には介入せず自由な値決めが行なわれる。したがって、メーカーには薬価引下げの直接的な影響は無いようにも思われるが、最終小売価格が引き下げられれば実勢価格も仕切価も連動して引き下げざるを得ない。そこで、仕切価の引下げは製薬企業の減収となって現れるはずであるにもかかわらず、日本の製薬企業は利潤率を安定的に維持してきた。ただし、主力製品が異なることから企業間に差かおることも見逃してはならない。

 薬価引下げを繰り返してきたにもかかわらず製薬メーカーが高利潤率を維持してきた理由はいくつか考えられる。第1には薬価基準収載時価格が異常に高く、そして収載後の改定における引下げ幅が不十分であったことが考えられる。しかし、この指摘は製薬メーカーの利潤率の高さを説明できても、利潤率の安定的推移を説明できない。薬価改定の直前・直後では利潤率が変動していなければならないのに、実際には大きな変動がないからである。

 第2は仕切価引下げ分を使用量(販売量)の増加で補って高い利潤率を維持してきたという見解である。かりに薬価改定に伴い仕切価を2%引き下げたとしても、使用量を2%増加させることができればメーカーの収入総額は変わらず、したがってメーカーの利潤率は変化しない。しかし、処方するのはメーカーではなく医師であるから、製薬企業の思惑通りに事が運ぶという保証はない。不必要な薬を利潤目当てに処方してきたとは考えがたい。

 第3の理由として生産性の上昇が指摘されている。かりに薬価改定により2%の仕切価引下げが必要であるとしても、生産性を2%以上上昇させれば利潤率の低下は免れる。しかし、2年ごとに薬価引下げ分に見合った生産性上昇を持続させることが可能であるとは考えがたく、生産性上昇で説明できるとは思われない。

 第4の理由として、薬価基準で高価格が設定される新薬の使用をメーカーが意図的に促進することが指摘されている。ゾロ新も薬価基準において比較的高価格が設定されるので、この説はかなり説得力がある。しかし、ゾロ新を製造するためには画期的新薬が存在していなければならない。画期的新薬は頻繁に生まれるものではなく、この説明にも限界がある。

 以上4点ほど指摘したが、いずれも単独では高利潤を説明し尽くすものではない。他の理由も含めて複数の要因が重なって高利潤を維持していると考えられる。

 国内では驚異的な利潤率を日本の製薬メーカーも、国際的にはかなり低いものであることを注意しておく。

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