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医薬品の経済性評価について

 医薬品は効果と安全性が重視され、経済性は軽視されてきた。とくに医療保障制度が完備した国々では患者負担が小さく、また医薬品提供者である薬局と医療機関には医薬品の流通価格プラスアルファが支払われるので、社会全体が医薬品の経済性を重視する必要性は乏しい。しかし、医療のための保険料(税)は国民の負担であり、過度の国民負担を回避するには経済性についての十分な考慮が必要である。

 医薬品の経済性評価は費用便益分析(Cost-Benefit-Analysis : CBA)、費用効果分析(Cost-Effectiveness-Analysis : CEA)あるいは費用効用分析(Cost-Utility-Analysis : CUA)という手法で行われる。医薬品の経済性評価は薬理経済学(Pharmaco-Economics)とも称される。同様の手法で治療方法の経済性を評価する臨床経済学(Therapitical economics)とともに狭義の医療経済学に位置付けられる。

 医薬品の経済性評価には医学・疫学・薬学の専門知識が必要であり、それらの知識に乏しい筆者は医薬品の経済性評価の概要を紹介しておくに止める。なお、経済性評価にはCEAが多用されるが、それはCBA、CUAよりも客観的であることによる。

 さて、類似の効果をもつA、 B 2つの医薬品があり、単価はx円とy円、そしていずれも1日1錠服用であるとしよう。効果が全く同じであれば価格の低い方が選択されるのは言うまでもない。しかし効果に若干の差がある場合、話はそれほど単純ではなくなってくる。ほとんど同じ症状であってもAを使用した場合には1週間、Bでは5日間の入院治療が必要であるとし、入院費が1日当たりα円とすると総費用は

   A = 7 (x十α)
   B = 5 (y十α)

である。この式のX、 y、αに適当な数字を代入すればAとBのいずれが経済的であるかの結論が得られる。入院費αが影響して、低価格である医薬品の使用が経済的であると単純に結論できないことも理解されるであろう。

 短期の費用効果分析を例に医薬品の経済的評価の考え方を紹介したが、長期的考察も必要である。長期間を対象とした経済性評価で重要な要素は「再発率」である。再発が全くなければ短期的な評価と同じ結論になる。しかし、一定の確率で再発が不可避的である場合には短期とは異なった結論になる可能性があるi

 前述の例で、A剤が経済的であるとの結論を得たとしよう。患者のその後を追跡調査したところ、A剤使用患者の10%が、B剤では7%が5年以内に再発したことがわかったとする。そして再発のケ-スでは投薬以外の治療も必要になるとすると、再発率のわずかな差は医療費に影響を与える。したがって、短期的に最適であった医薬品選択が長期的には好ましくない結果をもたらすことがありうる。以上が長期的評価を必要とする理由である。

 医薬品の経済性と同様に治療行為の経済性(外科手術か内科的治療かなど)についても経済的評価が必要である。わが国の医療保険は医療機関の実費を補填することとなっているので、医療機関にコスト意識が働きにくく経済性評価はなされていない。有限な資源を効率的に使用するには、経済性評価は不可欠である。

 CEA等による経済性評価だけで医療における資源配分が適切に行われるわけではない。経済性評価は現在の価格を与件として行われるが、現在の価格が適切であるとは限らないからである。現在の価格が不適切であれば、医薬品の経済性評価は方法論としては適切であっても結果は誤ったものとなる。したがって、医薬品等の価格形成についての考察が必要である。