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薬価基準について

(1)品目表としての薬価基準

 薬価基準には2つの性格があり、1つは保険診療に使用できる医薬品一覧表(positive list)としての側面であり、もう1つは保険適用医薬品の価格表(tariff)としての側面である。今日議論されている薬価制度改革は価格表改革であり、品目表改革ではない。

 薬価基準には保険診療として適切な医薬品が収載されることとなっており、医薬品としては承認されていても、過度に高額な医薬品や大衆薬などは除外されている。現在の薬価基準収載医薬品は全医薬品の95%に相当する1万1千程度の品目である。

 薬価基準制定当初から1978年までは、医薬品の主成分を指定した「一般名収載」方式が採用されていた。これは、薬価基準が多くの医薬品を保険診療に取り込むことを目的にしていたことから見て当然の方針であった。しかし、同一主成分であって仏個別の品目間には溶解率(錠剤などが服用後一定時間内における量)など、品質上の差がある。品質の差を無視した一般名収載には問題があり、78年からは個別品目を指定した「銘柄別収載」に移行し現在に至っている。

 薬価基準は製品名、成分名、保険給付価格とともに適応症についても規定しているので、医薬品を適応症以外の治療のために使用した場合は保険給付の対象にはならない。医薬品は広く使用が開始された後に、治験段階では観察されなかった効果が発見される場合もあれば、逆に当初想定した効果が非常に小さいことが判明するヶ-スがある。そのため販売後一定期間を置いて医薬品の再評価が行われているが、効果に追加削除があれば薬価基準の適応症も改定される。薬価基準の適応症は薬学と臨床データからかなり慎重に規定されていると考えられる。しかし、有力な異説がないわけではない。そのため代替使用(薬価基準に規定された適応症以外への使用)の保険給付を容認するか否かについて、審査支払機関の都道府県支部問あるいは審査委員間で判定が異なることがある。また明らかに適応症規定違反である医薬品の相互作用(複数医薬品の成分が体内で反応し新たな化学物になること)を利用した治療が有効であるヶ-スもある。このように薬価基準の適応症指定は完全なものではなく、絶えず見直しが行われる必要がある。

(2)基準価格

 薬価基準のもう1つの側面である価格表に話を移す。薬価基準に規定された価格(以下「基準価格」とい引は保険給付価格一一保険医療機関または保険薬局から患者への引渡し価格一に対する規制であって、メーカーの出荷価格(仕切価という)や流通価格(実勢価格とい引についての規制ではない。とはいえ、最終小売価格である保険給付価格、すなわち基準価格が規制されるので、実勢価格や仕切価に影響を及ぼすことは否定できない。実際、基準価格が改定されるたびに実勢価格も変化している。

 実勢価格は一物一価ではない。一物一価ではない理由は前章で説明した。

 さて、基準価格は一物多価である実勢価格の統計指標によって設定されている。薬価基準の改定に先立ち厚生労働省は「薬価調査」を実施する。薬価調査は医薬品卸事業者を対象に行われ、保険医療機関と保険薬局への品目別納入価格についての調査である。薬価調査は抜き打ちではなく事前に通知した調査対象月1か月間についての調査であり、多少の問題がないわけではない。

 薬価基準制定当初から1992年まではバルクライン方式が採用され、それ以降は加重平均値プラス一定幅方式が採用されている。バルクライン方式とは実勢価格の最低価格からの取引量の相対度数を累積していき、一定の累積度数に対応した価格を基準価格とするという方式である。当初は80%ラインが使用されていたが、その期間は短く、 90%ラインで基準価格が設定されてきた。実勢価格の分布にもよるが、正規分布であると仮定した場合、 90%バルクラインは異常値といえるほど高い数字である。このような高価格は、不足していた医薬品を保険診療に優先配分するという薬価基準制度創設の目的のもとに容認されてきたと考えられる。保険給付価格が低額であれば差益は少なく、より多くの差益が得られる自由診療へ医薬品は配分されるからである(詳しくは薬価差益の項参照)。

 さらに、バルクライン方式では調査時点で価格と数量の操作-低価格での取引を抑え高価格での取引を増やすーが比較的容易であると考えられる。高価格と価格操作への疑念があり、保険者等から薬価引下げとバルクライン方式の見直しが要求されてきた。

 1992年からは加重平均値プラス一定幅方式へ移行した。一定幅をR幅(reasonable zone)と称したが、2000年度にはC幅(Cにとくに意味はない)と改称している。現在の方式は

   基準価格=実勢価格の加重平均値十C

である。当初のR幅は15%に設定された。これはバルクライン方式からの移行に伴う激変緩和のためであった。もともとバルクライン方式から現行方式に変更したのは基準価格を引き下げるためであったので、R幅は逐次縮小され、現在のC幅は2%になっている。

 バルクライン方式と比較すると現行方式で算定される基準価格のほうが低くなる。したがって患者と保険者の負担は軽くなるので、バルクライン方式の廃止は一応評価できる。なお、C幅は医療機関等における医薬品の在庫管理費補填分であると説明されている。