医薬翻訳サービス

薬理学、生化学、統計学に精通した翻訳士が対応いたします

魚に生じる癌

 ニベという塩焼きにして食べたり、カマボコの材料にされる魚がある。黒色(肉)腫(メラノーマ)が皮膚にできていることがある。多発することが多く、内臓に転移巣を形成する。ある時、紀州の沖でとれたニベの八割近くに、このメノーマができていたことがある。このメラノーマは人間のメラノーマに似ている。人間のものは皮膚の表面の上皮という層にできるが、この魚のものは、皮膚の下のほう、真皮という層にできる。遺伝的影響によるのか、環境要因によるのかわかっていない。

 環境汚染による腫瘍として、二時喧伝されたものに、東京湾をはじめとした内湾のハゼにみられた腫瘍がある。これは奇形といわれたり、オバケハゼなどと呼ばれて、環境汚染の象徴のようにいわれたことがある。一見、ある種のがんのように見え、偽腫瘍と呼ばれることもある。米国の国立かん研究所のドーらの詳細な研究の結果、実はこの腫瘍は、魚由来のがん細胞でなく、アメーバ類の寄生によるものであることがわかった。アメーバが勝手気ままにハゼの皮膚の中で増えて、一見、がんのように見えたのである。もちろん、そのかたまりは、魚の細胞由来でないから、かたまりを構成する細胞のDNAや蛋白質は魚のものではない。

 海の底にじっとしていることが多いヒラメ、カレイのような、いわゆる底住魚の類に皮膚がんを見ることもある。皮膚がんは、底に面している白い側だけでなく、上を向いている黒い側にも発生する。これは、底に魚が泳ぎ着いた時に、表面の砂が黒い側にも積もり、一見砂にもぐったような状態になるのだから、もっともなことである。そして、この皮膚がんは海底の砂や泥やゴミの中に、何か発がん物質が停滞蓄積していたためだろうといわれている。正確に、 どんな物質ががんを起こしたのかは突き止められてはいないが、河口付近の魚にこのような皮膚がんが認められることから、河川の汚染によるものかとも思われる。しかし、これらも本当の悪性のがんではない。

 一見がんのように見えて、がんでない場合があるから、魚にがんのようなものを見つけた時は、専門家に聞いたほうが良い。常陸宮正仁親王殿下が魚のがんにくわしい。水族館で飼っているサメやエイの類の甲状腺のがんにも造詣が深い。この甲状腺腫は、人間にも、中国東北部やモンゴルなどの内陸地方で見られるように、ヨードの欠乏で起こるものらしい。早期にヨードを与えると、可逆的に縮小してしまうのに、ある程度増殖してしまうと本当に悪性のがん細胞になってしまう。一九二五年頃、米国の五大湖地方は人間の甲状腺腫の多発地帯であった。しかし、食塩にヨードを加えることによって、病変の発生を抑制することができた。