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終末期癌患者治療のチームづくり

 

 麻酔科医として末期癌患者の除痛に対し相談を受ければ、神経ブロックあるいはモルヒネの投与を行っていた関係から、昭和63年に初めて「癌患者に対する終末期医療のあり方に関する研究(平賀班)」に参加し、班員・班友となっている施設の終末期患者に対する取り組み方が積極的であり、且つ痛みに対して効果的な治療を行っていることを教えられ、当病院は立ち後れている印象を抱いた。他施設と同様の鎮痛対策を患者が受けられないかを考えた結論は「チームづくり」1)であった。(後で分かったことではあるが、2~3人の先生達は見劣りのしない鎮痛対策を行っていた。その具体例としては、モルヒネ坐剤( 15mg )を薬局に調剤してもらい、食事摂取不可の患者に投与していたが、全病院的にその影響が浸透していなかったということはあるが…。)

 

      [1]どのようにしてチームをつくったか

 

 麻酔科医として各病棟に終末期患者の除痛のために主治医から依頼を受け病棟回診にいき、病棟看護婦からも患者の状態を聞くチャンスも多かった。更に、カルテから主治医の鎮痛方法も知り得た。

 

 更に、以下に示す要因が認められたので医局・看護部に説明し、その了解のもとにチームづくりを行った。

 

 要因を看護婦、医師、薬局に分けて取り上げてみる。

 

 [看護婦]若き看護婦の悩み

 

 患者を巡視して、患者からの訴えの多くが痛みであることは日常感じていることであるが、患者自身が癌であると知っている場合と、そうでない場合とでは対応が異なる。また、ベテラン看護婦と卒業したでの新人看護婦とでは、同じように患者さんに説明できるかというと答は「NO」である。看護婦同士で事細かに教えているかと言えば、歯切れの良い答が返ってくるとは考えられない。理由としては、日常看護に多くの時間が割かれ、先輩から事細かに患者の内面的なことまで教えてもらえない。このようなことは日常看護の中から自分自身で学びとっていくものだと言われても、今直面している事柄については何ら解消されていないという現実がある。学校における看護教育は総論的であり、且つ現実から少し遅れていることが多い。癌患者の内面にまで立ち入ったことを看護するには経験的に学ばなければならないし、更に患者の訴えを具体的に医師に上申し、的確な指示を受けることは難しい。診断や治療に専念している医師は、治療に直接関係がないと思われる訴えに対しては的確な指示どころか、看護婦任せになっているのが現実である。

 

 患者サイドからみれば、自分自身の訴えを速やかに解消してくれる看護婦と、そうでない看護婦に色分けしてしまう恐れがあり、このようになると患者は前者には多くの訴えを示し後者にはあまり多くに事をしたがらなくなってしまい、誠心誠意看護しょうと思っでも意志の疎通がはかれなくなってきてしまう。看護婦の格差が生じる結果になる。このような格差をなくす努力としては、看護婦たちはチームナーシングなどを通じて意見の交換を行っているが、指導する立場の看護婦も、経験的に得た知識を理論的に裏づけされたものとしての意見にするには、日常看護に追われ勉強する機会も少なく、後輩の面倒をみることを充分に果たせていなかった。

 

 [婦長の役割]

 

 カウンセラー等のいない病院においては、婦長の患者へのアプローチが大きい。看護婦は日常看護に追われて一人ひとりの患者に対して細やかな訴えを聞く時間的余裕がないが、婦長は患者に対して別の角度から接することができる。その結果を病棟のカンファレンスに反映させることが看護婦格差をなくす手段となりうるが、受けとめる看護婦に、それに対応するだけの時間的余裕がないこともあり、婦長の強力な指導力が要求されるが、婦長各個人にも取り組み姿勢に差があるために、一律な結果が出るとは限らない。

 

 [医 師]終末期医療に関心があるか?

 

 専門各科に分かれてしまうと、多くの病院では2~6名の人員配置であろう。これらの医師が外来・入院患者を診療する場合には多大の労力を必要とする。癌専門病院では当然のことではあるが治療を優先するが、再発患者のcareも必要である。外来通院ではcareできない患者は入院させるが、ほとんどの患者は死亡まで入院している。その間多くの患者は痛みを訴える。診断治療を中心に行っているために、再発患者の訴えまでには充分な配慮が欠けることがあり、日常の患者careは看護婦まかせになる傾向になってくる。

 

 [ローテーション医師の立場]

 

 医師の構成としては、常勤医師とローテーション医師とで構成されている。ローテーション医師は主に大学卒業後2~6年間の医師であり、主に大学の各医局から派遣され1~2年間常勤医師として勤務する。これら医師は新しい診断治療知識を派遣病院にもたらすと同時に、技術を修練する。しかし、大学のカリキュラムの中には終末期癌治療は含まれてなく、新しい体験であり、勉強しなければならない。若き看護婦の立場と同様であり、先輩医師から細かなこ・とを教えられることもあるが、多くは自ら勉強しなければならない。

 

 [薬 局]薬剤師の診療に対する姿勢

 

 医師の処方する薬の受渡し、あるいは病室からの薬の要求にだけ応じているのみでは、協力体制は生まれてこない。その対策として医師・看護婦に対して特にDrug Information の確立が大切であり、医師・看護婦には積極的に薬剤の情報提供がなされることがClinical Pharmacolosist としての役割である・と定義すると、当院の薬局は、病院において使用される薬剤一覧の冊子の発行と、月1回の薬剤情報が出されており、薬剤師と医師・看護婦の一体感、即ち連携が可能となるであろう状況であった。特にモルヒネの管理保管、使用量についての理解があるかどうかも、終末期患者の除痛対策を行うことでは重要であるが、これらの条件が満たされている状態であることが確認された。

 

 以上をまとめてみると、

 

看護婦:終末期患者の看護に対する勉強のチャンスが欲しい。終末期患者の訴え、特に痛みについての医師の理解が欲しい。医 師:少数の医師は痛みに対して熱心であり、その知識を全病院的に広めていない。他の医師は理解が少ない。ローテーション医師は診断治療については知識はあるが、終末期癌患者の鎮痛法について専門的教育を受けていない。

 

薬剤師:充分対応する体制にある。

 

 このような結果から「チームづくり」の時期、条件は揃っていると考えられた。

 

終末期医療チームの活動内容

 

 原則として毎月第4木曜日に会を開催することにして、出席者が予定を立て易くした。特に出席看護婦はこの日の準夜勤務にならないように婦長にお願いした。

 

B)症状呈示

 

 痛みを訴える患者についてどのような鎮痛剤が使用されたか、投与量はどうであったか、モルヒネ使用患者には特にモルヒネの鎮痛作用、投与間隔、副作用などはどうであったかなど、それに対して患者の一般状態はどうであったかを、看護婦の観察から報告してもらい自由討論の形式で検討した。症例数は4例とした(1病棟2症例を原則としたので、二つの病棟からの発表になった。最初のうちは発表原稿を作るのに担当看護婦は多大の労力を要したようであるが、慣れてくるにしたがって要領よくまとめられるようになった)。必要な場合には主治医の参加をお願いした。

 

C)疾患別鎮痛法

 

 鎮痛法の特徴が認められた。患者の疾患別にそれぞれの鎮痛法が行われていることが、看護婦どうしでも改めて認識された。しかし、症例呈示を行っていくうちに、看護記録の問題点も指摘されるようになってきた。鎮痛剤を与えられて痛みが軽減しているにも拘らず患者の日常生活の行動のチェックの記録が統一されていないこと、即ちよく記録されていないものもあり、よく記録されているものもあるということである。医師に対する不満も出てきた。主なものは、看護婦から判断するとモルヒネ投与患者に更に多量投与すれば患者は痛みが軽減するであろうと考えられるのに、少量の鎮痛剤、疼痛時指示(定時指示ではなく)、モルヒネの副作用対策指示もないといったことである。このような話題の中から各病棟間の看護婦の意見交換が活発になり、各病棟の鎮痛方法の実態が把握されて自分の属する病棟にFeed-backされるようになり、これらの情報が医師に伝えられ、主治医もそれに答えるような態度になってきた。

 

    [2]どのような方法(チームの運営)がよいか

 

構成メンバーの選択:医師(各科,あるいは疾患別から代表1名),看護婦(各病棟から2~3名,婦長2~3名),薬局(1~2名)が妥当な数と考えられる。更に自由参加とする。メンバーは毎回出席を原則とするが,医師の場合は義務づけない。司会は医師が行い,所属科に属さない医師が望ましい。理由は,自分の行っている方法を他科に押しつけない立場の医師(副院長、あるいは多くの診療科と付き合いのある科、例えば麻酔科、放射線科等の医師など)が望ましいから。会の運営:定期的に行う(毎月)。年間のテーマを決め、それに基づいて

症例検討を行う(例、鎮痛剤等の勉強など)。記録をとっておき、結果を院内に広める努力をする。各科の医師による疾患別病態の講義。アンケート調査(当院で死亡した患者家族から見た診療と看護の分析など)

 

            [3]問題点

 

 看護婦が呈示する症例検討例は、成功例ではなく、難渋したあるいはしている症例が望ましいが、成功例を呈示する傾向がみられた。医師の指示内容が明らかになることで、鎮痛剤の知識が間違っていることもあるが、徐々に改善するようにした。また、医師の出席率が悪かった(出席者2~3名)。

 

              ま と め

 

 終末期癌患者のチームづくりは指導力のある医師などを中心につくると比較的スムースに軌道に乗ることも考えられるが、医師・看護婦・薬剤師などで協力して作ることが、進歩はゆっくりではあるが根がしっかりとした会となり、三者の共通の広場になって有意義である。