医薬翻訳サービス

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開業医に自社の医薬品を使ってもらうために

 

 いわゆる接待は、僕はほとんどしません。毎日のように担当の先生たちと飲みに行く人もいますけど、あまりそういう必要は感じないですよ。この業界では、飲みに行くといったら朝4時、5時までつき合うことですからね。そこまでとことん飲む先生も、少なくなってきました。第一、接待費は課でいくらって決まってるんですけど、ほとんどないに等しいですからね。もちろん、会社が必要だと思えば接待もしますが、今の卸には、しょっちゅう接待できるような体力はありません。

 

 ゴルフも時には行きますけど、個人的なつき合いです。「ゴルフ行くぞ」つて先生に誘われても「金ないですよ」と言うと、「おまえの分だけ出せばいいから」 つて言ってくれますから、会社的な接待というより一対一のつき合いですね。きょうも、ある病院の事務長と話していて、今度の休みに釣りに行く約束をしました。僕はもともと釣りはしないんですが、その病院はうちの力が弱い病院ですから、これで事務長と仲良くなれれば結構いい線いくんじゃないですか。

 

 とにかく、ほかの卸より強くなりたいですよ。強くなれば自然と売り上げ増もついてきますから。「ほかの卸がこんな価格を出してきたんだけど、おまえどうするんだよ」と開業医の先生に言われて、「きびしいけど、合わせます」「じゃあ、おまえのところにするよ」となれば大成功です。

 

 売り上げは給料には直接響きませんが、うちの場合はボーナスで差がつきます。それと昇給、昇格のスピードが違ってきます。今までは給料が下がることはなかったけど、会社はこれから下げると言ってますからね。MSとして生き残るためには、自分を磨かなきゃいけない。社内の研修でも薬剤、病気のこと、業界の動向についてずいぶん勉強させられています。新聞は必ず読んで、雑誌やテレビも見られるときには見て、いろんなところにアンテナを張ってないといけないんです。

 

 僕は文系学部出身だし、カタカナに弱くて、はじめは薬の名前を覚えるのも大変でした。でも、今は幅広い薬の知識だったらMRに負けないと思ってます。2ヵ月に1回テストがあるんですよ。病気とか薬のこととかテキストが送られてきて、テストはどれだけ頭に入っているか確認するような感じです。テストの結果でどうこういうのは今のところないけど、成績が所内で発表されますから、勉強してないやつは自然とわかるんですよ。MRと同じようにMSも資格化すべきだと思います。能力のない者が医療機関で薬の話をしてはいけない。生命にかかわる仕事なわけですから。

 

 薬の値段については、僕の担当のところでは、4月に薬価改正があって7月まで3ヵ月も値段が決まらない病院がありました。結局、メーカーから仕入れた金額より安くできないのに、病院が納得しなくて値段が決まらなかったわけです。最終的にはこっちの出した値段で決着しましたけどね値段が決まらなくても、医薬品を納入しないと患者さんの生命にかかわるわけだから納品だけは続けていました。3ヵ月はいいほうで、1年決まらないところもあると聞いています。値段が決まっている薬でも、支払いは平均3ヵ月後ですから、納品していてもいつ払ってもらえるかわからない。だから卸は資金力が問われます。ここのところ毎年薬価改定が行なわれていますが、薬価が改定される4月にはもう勝負がついているんです。7月に値段が決まったら、次の4月の薬価改定までどう動いていくか、毎日の情報活動が重要です。ポンド毎日毎日の積み重ねですよ。個々の医療機関がはしかっている情報を提供して信頼関係を築いて、ほかの卸との競争にどこまで食い込んでいけるか。強くなりたいですよねえ。

 

 日本には卸が多すぎます。小さい地域卸ははっきりいって邪魔なだけだから、早くなくならないかなあと思ってます。今担当している地区では、競争相手は卸5~6社です。病院もたくさんの卸と取引してもメリットがないから、3社くらいに絞ってきています。だって、前にも言ったとおり、どこの卸も底値出したらいっしょなんですから、何社も競争させたら価格が安くなるというわけじゃない。価格にうまみがないんです。情報量もない、配送も悪い卸はお引き取り願いましょうということです。長年のつながりでうちが強い医療機関には、うちの独占にしようとしています。3社の卸と取引してたんですけど、もう義理だけで取引している時代じゃないですよと先生に言ったら、先生もそうだと思ったらしく、一社切れて、もうー社ももうすぐ切れそうです。逆にうちが弱いところが怖いですよね。うちが切られることだってあるんですから。その辺が日々の積み重ねで、事務長や薬局長など、その病院のキーパーソンがひと言「あそこは一生懸命やってるから切るな」と言ってくれればいいんです。病院の中で何人味方につけられるかですよね。その病院のキーパーソンが誰かを見極めることも大事なんです。

 

 MSの話を聞いていると、MS同士の競争は情報戦争に突入している。そして、医薬品卸も企業として生き残るために、医療機関の経営コンサルタント業務に乗り出したり、高齢社会に対応するため介護機器の販売やホームヘルプ事業を始めるなど、多角的な動きを見せているのだ。

 

 そうしたなか、薬価という国家の公定価格に守られた護送船団は沈没しかかっている。そこからはい上がっての流通改善となれば、MRとMS双方の削減は避けて通れないといわれている。なにしろ、MRの数は、業界5団体に加盟している製薬メーカーのMRだけで5万1110人、MSの数は3万1000人。全国には96年10月1日現在の数字で病院が9490軒、開業医の一般診療所が8万7909軒で、合わせて10万軒としても、単純に考えれば医療機関2軒に対し1人のMR、医療機関3軒に対し1人のMSがいることになる。MRはメーカー単位で活動しているのでこの計算は少し乱暴にしても、MRの人件費と営業経費、卸へのバックマ-ジンが、世界一いといわれる薬価に含められてきたのだとしたら、やはり、MRとMSの数は多すぎるとしか思えない。彼らの給料の源である薬価を支えてきたのは、われわれ国民が支払う医療保険料と税金なのだから。それを考えて、医師のほうも、「まめに顔を出すMRの会社の薬しか買ってやらない」などという、子どもじみた態度を改めてほしいものだ。

 

 

『知らなかった医薬品業界』より